「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4
第2話追放2日目1
元マクリン公爵家令嬢のオリビアは、カツカツと足音を響かせ街道を歩いていた。
その眼には絶望も憎しみもなかった。
あるのは諦観だった。
自分の力では何も変えられない事を悟ったからだ。
人の愚かさを思い知ったからだ。
その姿を遠くから監視する者達がいた。
「いいか、この遠見の鏡でオリビア嬢の言動を見守る。
その言動がお前達が言うように謀叛につながるなら、オリビア嬢の処刑を認める。
だがその言動に卑しいところがないのなら、追放刑を取り消す。
それでよいな」
「それで構わんぞマクリン公爵。
どうせ恥をかくのはマクリン公爵だ。
娘の悪行をその眼に焼き付けるがいい」
公明正大に今後の方針を皆に言って聞かせるオリビア嬢の父、左大臣マクリン公爵フレディ卿に対して、ジョージ王太子が傲岸不遜に言い返す。
確かに地位や身分は臣下のマクリン公爵よりもジョージ王太子も方が上だ。
だがその言い方は、王国の柱石に対する口の利き方ではなかった。
黙って見守っていたオリバー国王は顔を歪めていた。
最悪の決定を下さねばならないかと、内心で苦悩していた。
「修道女様。
どうかお慈悲を願います。
家に病の娘がいるんです。
お礼を差し上げることなどできないのですが、格別のお慈悲で治療していただけないでしょうか」
「ふん!
愚かな下民どもめ!
治癒の魔法が使えるのは、神殿で厳しい修行をした修道女だけだ。
オリビアのような謀叛人に、神の奇跡が行えるものか」
王太子の言葉遣いは褒められたものではないが、内容だけはその場にいる全員が同意していた。
攻撃魔法や補助魔法は、貴族士族にも使える。
いや、使えない者は貴族士族になることができない。
だが治癒魔法は別だ。
神の奇跡に頼る治癒魔法は神殿の専売特許だった。
だがその治癒魔法の使い手が極端に減っていた。
神殿は王侯貴族に魔の力が強大化している影響だと主張していた。
同時に陰で、王侯貴族の神殿に対する信心が低下したせいだという噂を、王国の民に流していた。
「いいわよ。
お礼など気にしなくていいわ。
あ、でも、家のどこかで寝かせてくれないかしら?
今日の宿が決まっていないのよ」
「え?
でも、家のようなあばら家に修道女様を泊めることなどできません。
村長の家に行かれた方がいいのではありませんか?
修道女様なら村長もよろこんで歓待すると思います」
「堅苦しいのは嫌いなのよ。
修道女だと言って、村に寄付を強要する気はないの。
水を飲ませてくれたら十分よ」
「そんなあ。
修道女様が寄付を強要するなんて、これっぽちも思っておりません。
神殿を維持するのに必要な寄付だと分かっております」
「ありがとう。
でも私には気を使わなくていいのよ。
それより早く娘さんに会わせてちょうだい。
治療してあげたいの」
その眼には絶望も憎しみもなかった。
あるのは諦観だった。
自分の力では何も変えられない事を悟ったからだ。
人の愚かさを思い知ったからだ。
その姿を遠くから監視する者達がいた。
「いいか、この遠見の鏡でオリビア嬢の言動を見守る。
その言動がお前達が言うように謀叛につながるなら、オリビア嬢の処刑を認める。
だがその言動に卑しいところがないのなら、追放刑を取り消す。
それでよいな」
「それで構わんぞマクリン公爵。
どうせ恥をかくのはマクリン公爵だ。
娘の悪行をその眼に焼き付けるがいい」
公明正大に今後の方針を皆に言って聞かせるオリビア嬢の父、左大臣マクリン公爵フレディ卿に対して、ジョージ王太子が傲岸不遜に言い返す。
確かに地位や身分は臣下のマクリン公爵よりもジョージ王太子も方が上だ。
だがその言い方は、王国の柱石に対する口の利き方ではなかった。
黙って見守っていたオリバー国王は顔を歪めていた。
最悪の決定を下さねばならないかと、内心で苦悩していた。
「修道女様。
どうかお慈悲を願います。
家に病の娘がいるんです。
お礼を差し上げることなどできないのですが、格別のお慈悲で治療していただけないでしょうか」
「ふん!
愚かな下民どもめ!
治癒の魔法が使えるのは、神殿で厳しい修行をした修道女だけだ。
オリビアのような謀叛人に、神の奇跡が行えるものか」
王太子の言葉遣いは褒められたものではないが、内容だけはその場にいる全員が同意していた。
攻撃魔法や補助魔法は、貴族士族にも使える。
いや、使えない者は貴族士族になることができない。
だが治癒魔法は別だ。
神の奇跡に頼る治癒魔法は神殿の専売特許だった。
だがその治癒魔法の使い手が極端に減っていた。
神殿は王侯貴族に魔の力が強大化している影響だと主張していた。
同時に陰で、王侯貴族の神殿に対する信心が低下したせいだという噂を、王国の民に流していた。
「いいわよ。
お礼など気にしなくていいわ。
あ、でも、家のどこかで寝かせてくれないかしら?
今日の宿が決まっていないのよ」
「え?
でも、家のようなあばら家に修道女様を泊めることなどできません。
村長の家に行かれた方がいいのではありませんか?
修道女様なら村長もよろこんで歓待すると思います」
「堅苦しいのは嫌いなのよ。
修道女だと言って、村に寄付を強要する気はないの。
水を飲ませてくれたら十分よ」
「そんなあ。
修道女様が寄付を強要するなんて、これっぽちも思っておりません。
神殿を維持するのに必要な寄付だと分かっております」
「ありがとう。
でも私には気を使わなくていいのよ。
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