「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第4話

「では行きましょうか、月光姫殿」

圧倒的でした。
旅の騎士様の強さは、選び抜かれたはずの近衛騎士を全く寄せ付けません。
騎士長以下十騎が、たった一合も剣を戦わせられません。
旅の騎士様の剣を受ける事すらできず、板金鎧ごと両断されてしまいました。
その剛力と剣の鋭さは、人の技とは思えないほどです。

「ですが旅の騎士様。
私がこの国を離れてしまうと、大陸が滅びてしまいます」

「それは仕方がない事です。
自分の犯した罪は、自分で償わなければいけません。
この国は大きな罪を犯しました。
ならばその報いを受けなければいけません」

この方はこの世の終末を知っておられるのでしょうか?
それとも単に内乱の被害を言っておられるのでしょうか?
内乱の事だと考えておられるのなら、お教えしなければいけません。
これほどの精強な騎士様です。
本気で対処してくださったら、終末を押し止められるかもしれません。

「旅の騎士様が考えておられるような事ではないのです。
私がこの国を離れると、魔獣が湧き出てきてしまい、この世の終わりが、終末が始まってしまうのです」

「分かっていますよ。
それは確かに大変な事です。
ですが、それも、この国の指導者が選んだことです。
月光姫殿は民が可哀想と言われるでしょう。
ですが、それは、民の怠惰ともいえるのです。
本気で救われたいのなら、民も戦うべきです。
民には王侯貴族を滅ぼす力があるのです」

旅の騎士様は、平民出身の英雄が腐敗した王侯貴族を討ち斃して新たな王国を建国した、ゲルベルト王国の事を言っておられるのでしょうか?
ですが、それはあまりに民に無理難題を押し付けています。
普通の民は魔力を持っていません。
極稀に魔力を持って生まれる者もいますが、そのような者の魔力は精々下級貴族、男爵程度の魔力しかないのが常識です。

「それはあまりに民に厳し過ぎます。
民が天から与えられる魔力は清々男爵程度です。
とてもではありませんが、強力な魔力を持つ王侯貴族には勝てません」

「そうではありませんよ、月光姫殿。
魔力は信仰心で高められるのです。
確かに持って生まれた才能は大切です。
大切ですが、それが全てではありません。
太陽神殿と月神殿では、平民の魔力持ちを集め、厳しい鍛錬により陽光姫と月光姫を育て上げるのではありませんか?
同じでございますよ。
全ての魔力持ちを集め、信仰心に加えて戦いに必要な魔力魔術を教えれば、王侯遺族にも負けない魔力魔術を手に入れることができますよ」

私は旅の騎士様の話に衝撃を受けました。

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