「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第8話王太子ルーカス視点

ジャンが意気消沈しています。
私がわざわざ家臣の所に食事に訪れると聞いて、久しぶりに亜竜料理が食べられると期待していたのでしょう。

ジャンは命懸けの毒見役をしてくれていますが、そこ命懸けの役目を愉しむ心の強さと余裕があります。
主君である私に似たのか、食べる事が大好きで、毒見を楽しみにしています。
王家も財政が逼迫しているので、体面的に必要なとき以外は、亜竜肉を食べられなくなっているのです。

私にとっては、恋するナウシカが、手料理を振舞ってくれるというのです。
なんであろうと幸せ一杯なのです。
下賤な豚肉料理であろうと、私のために心を込めて作ってくれたのです。
侍従どもが猛反対しようと、取りやめたりはしないのです!

「これは!」

ジャンがマナーを破りました?!
私の面目にかかわるので、ジャンがマナーを破ったことなど一度もないのです。
そのジャンが、思わず食事中に声を発するなど、よほどの事です。
驚くほど美味しいか不味いかのどちらかでしょう。

ジャンが。
毒見中は絶対に表情を変えないジャンが、前菜を惜しそうに私に回します。
あまりの期待感に胸が高鳴ります。
ナウシカが私のために用意してくれた料理は、どれほど美味しいのでしょうか?

前菜は薄切り肉を乗せた野菜です。
蒸しているのでしょうか?
今まで嗅いだことのない馥郁たる香りがします。
野菜は嫌いなのですが、この香りはいいですね。
肉を美味しくしてくれそうです。

美味い!
薄切りした豚肉が、絶妙な厚みです。
厚過ぎず薄過ぎず、絶妙な噛みごたえとの後に旨みが押し寄せてきます。
これが豚肉料理だとは信じられません。
ですが野菜はいりません。
カチュアが作ってくれたとはいえ、野菜は却下です。

それよりは、ジャンが飲んでいるスープです!
スープなのに野菜が入っていません。
うれしい事です。
何の味もしない不味い野菜が入っているから、私はスープが嫌いだったのです。
だから野菜を取り除いたスープをださせるようになったのです。
もっとも、よほど優れた肉でないと、肉も味がしなくなっていますが、肉ならそれも許せるのです。
ナウシカは私の事を調べてくれたのですね。

お?
またジャンが驚いています。
惜しそうにスープをこちらに渡してきます。
少ないではないですか!
いつもより飲み過ぎです!
なんと?
なんと美味しそうな香りですか!
先ほどの前菜も美味しそうな香りがしていましたが、このスープはまた少し違う美味しそうな香りです。
美味い!
肉が美味い!
煮ていないのでしょうか?
豚肉の旨みがよく分かります!
ああ、もう飲み終わってしまいました!
毒見なのに飲み過ぎたジャンの責任です!

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