「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第4話

「レイラ様。
敵は手練れぞろいです。
ただの山賊とは思えません。
お覚悟願います」

騎士長のアレクサンダーが真剣です。
私は覚悟していましたし、アレクサンダーたちにも厳しく言っていましたが、本気にはしてくれていなかったのでしょう。
それも仕方ない事です。
カチュアの婚約者である王太子と、カチュアの妹で私の孫でもあるエイヴァが、カチュアと私を殺そうとするなんて。

「うわゎぁわぁあぁ!」
「しねぇぇぇぇえ!」
「くそ、くそ、しね、しね、しね!」

アレクサンダーが緊張するような刺客がこんな無様な声を出すはずがないですね。
家の年若い従士でしょうか?
情けない話です。
カチュアの護衛に選抜した騎士の従士がこの程度ですか……

「情けない従士がいますね。
あれほど厳しく注意したのに、この程度の従士を連れてきたのですか?」

「申し訳ありません。
私の不覚でございます」

「挽回をするためにも必ず撃退しなさい」

「はい!
命に代えましても!」

さて、どうしたものですかね。
今のところ、騎士の中にも侍女の中にも裏切り者はいません。
腕前よりも忠誠心を優先して選びましたから、裏切り者は出ないと信じたいですが、過信するわけにはいきません。
信じて私が死ぬのはかまいませんが、カチュアを巻き込むわけにはいきません!

「レイラ様。
騎士の半数で敵を防ぎつつ、馬車を先に行かせたいのですが、宜しいですか?」

「ダメです!
敵に旅程は知られています。
当然前後は封じられているか罠を仕掛けられています。
味方を分散させるのは愚の骨頂です。
刺客はこの場で全滅させなさい。
味方の分散は一切認めません。
馬車を止めて御者役の騎士や従士も迎撃に回しなさい」

「承りました」

さて、今の献策が忠誠心から出たのか、それとも自分の責任は回避しつつ、カチュアと私を殺させるための裏切りなのか、判断ができません。
嫌ですね。
長年仕えてくれている騎士を疑わなければいけないなんて。
彼らも苦しい立場です。
カチュアと私の命令と、エイヴァとレネオス公爵夫人ライリーの命令の板挟みになっているのですから。

「うわゎぁわぁあぁ!」
「しねぇぇぇぇえ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「たすけてくれぇぇぇぇ!」

刺客が近づいて来ていますね。
ここは私が出るべき時です!
歳をとったとはいえ、まだまだ若い者には負けません!

「レイラ様!
いけません!
レイラ様は最後の最後までカチュア様のお側にいてください。
行きますよ、オリビア」

「はい、シャーロット様」

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