「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第27話40日目の出来事

「ギャアァアア!」
「助けて、助けてください!」
「お嬢様!
助けてください、お嬢様!」
「奥様、奥方様!
お助けください!」

新都は阿鼻叫喚の生き地獄になっていた。
モドイド公爵家のイザベル極悪夫人とジェスナ極悪令嬢が主導して、廃人にしたエドワド王太子とモドイド公爵ライリダ卿を率いて、やっと新都にたどりついたのだ。
それが、その日に魔が襲いかかってきたのだ。
その恐怖と損害はどうしようもないモノだった。

当然だが、神龍の助けはない。
流民達や貧民は、シャロンの願いで助けた神龍だが、生きるために仕方なく同行した各領地の領民であろうと、新都の民を助ける気は全くなかった。
そもそも魔に人間を喰わすつもりだったから、気体の魔と液体の魔を滅ぼさず、自由にさせていたのだ。

「ヒィィィィイ!
助けなさい!
私を助けるのです!
何をしているのですか!」

イザベル極悪夫人は液体の魔に囲まれていた。
愛人に選んでいた近衛騎士と戦闘侍女に護られながら、新都から逃げようとしていたのだが、あちらこちらから湧いてきた液体の魔に襲撃されたのだ。
神龍の守護の無くなった人間には、魔に対抗する術などなかった。
それが最も弱い気体の魔と液体の魔が相手でもだ。

槍や剣で立ち向かった騎士が、攻撃と同時に包み込まれ、徐々に溶かされていく。
盾で防ごうとした騎士が、盾や鎧ごと包まれ、徐々に溶かされていく。
背中を見せて逃げ出そうとした騎士も、包み込まれて徐々に溶かされていく。
気が狂ってその場に座り込み、ケタケタ笑っている騎士も同様だ。
イザベル極悪夫人も同じように、包み込まれて徐々に溶かされていた。

ジェスナ極悪令嬢は、以前の経験があり、全てを捨てて逸早く逃げ出していた。
普段から側を護らせていた近衛騎士に自分を背負わせ、一目散に新都を逃げ出そうとしていた。
常に準備させていた軍馬にまたがり、脱兎のごとく新城から逃げ出した。
そのなりふり構わない行動が功を奏して、王都から逃げ出す事に成功した。

だがそこまでだった。
神龍が神龍鱗兵に見張らせていたのだ。
魔から逃げ出すようなら、自らの指令で殺すつもりだったのだ。
本当なら、激烈な苦痛を伴う、魔に喰わせるという方法で殺したかった。
イザベル極悪夫人、エドワド王太子、モドイド公爵ライリダ卿はその目論見が成功し、今まさに魔に溶かされているところだった。

だがジェスナ極悪令嬢は逃げ切りかけてしまった。
だから神龍鱗兵に殺させた。
身体中を徐々に切り刻み、眼をえぐり取り、爪、指、耳、鼻を叩き潰してから千切り取り、恐怖と激痛に苦しめながら殺した。
最後はシャロンにバレないように、遺体を液体の魔に喰わせた。
これで神龍の心になかでひとつの区切りがついた。

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