「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第23話26日目の出来事

(龍ちゃん。
やっぱりみんなお腹がすいていると思うの。
お肉ばかりじゃあきちゃうし、ここの小麦やライ麦を刈り取ろうと思うの。
手伝ってくれるかな?)

(もちろんだよ。
任せてよ。
みんな僕がやってあげるよ)

(ありがとう、龍ちゃん。
でも私も手伝いたいの。
龍ちゃんと一緒に働きたいの。
駄目かな?)

(駄目なんかじゃないよ。
僕もシャロンと一緒に働きたいよ。
こんなに楽しみな事はないよ)

(じゃあ今直ぐでもいいかな?
今直ぐ一緒に麦刈りをやってくれる?)

(もちろんだよ!)

最初の考えとは全く違っていた。
龍神には自分で麦を刈る気持ちなど毛頭なかった。
シャロンとの約束を果たすためだけに、よろこんでもらうためだけに創り出した一面の耕作物だから、自然に落ちたり虫や鳥獣に喰わせれるに任せる心算だった。
人間のために収穫する気など全くなかった。

もし、どうしてもシャロンの願い通りに、収穫して人に配らなければいけなくなっても、龍神鱗兵に全部やらせるつもりだった。
だが、シャロンが一緒に麦刈りをするというのなら、話は違ってくる。
シャロンと同じことをするというだけで、龍神には楽しい遊びなのだ。

嬉々として一緒に麦刈りをする。
それだけで楽しくて、疲れるたびにシャロンが腰を叩き、龍神の方を見て笑顔を浮かべてくれるのが、何物にも代えがたい喜びを与えてくれる。
龍神の長い長い生涯で、初めて感じる歓びだった。
この喜び以上の快感はないと思えるほど、衝撃的な快感だった。

龍神はずっとこの時間が続いて欲しいと心から思った。
思ったけれども、同時にシャロンの事が心配でもあった。
体力のない人間のシャロンに、長時間働かせるのが心配でしかたがなかった。
だからまた大量の龍神鱗兵を投入して、全ての作業を手伝わせることにした。
そして少しでも長く、毎日この幸せな時間を続けようとした。

(シャロン。
あまり頑張ると疲れてしまうから、ちゃんと休憩しようね。
お茶も水も果汁もワインも用意しているから、ちゃんと休憩しようね)

(うん、そうだね、龍ちゃん。
私働くのがこんなに楽しいなんて初めて知ったよ。
でも、楽しいのは龍ちゃんと一緒だからかな?)

(うん、そうだよ!
きっとそうだよ!
僕とシャロンが一緒に働くから、こんなに楽しいんだよ。
これからもなんでも一緒にやろうよ)

(うん!
これからもなんでも一緒だよ、龍ちゃん)

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