「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第20話15日目の出来事

(龍ちゃん。
みんな困っていないかな?
飢えていないかな?)

(大丈夫だよ。
どこに行ってもみんな普通に暮らしているだろ。
僕に任せてくれたら、何の心配もいらないよ)

シャロンは龍神に頼んで国中を巡るようにしていた。
まだ数日しか経っていないが、龍神はシャロンの願いを聞いて、多くの民を助けてくれていた。
龍神にとっては簡単な事だったが、本意ではなかった。
だが、それでも、シャロンを喜ばすためなら、なんという事もなかった。

龍神は緑の大地に変化させた荒野に、楽園を築く気でいた。
人間など好きに殺し合いをさせておけばいいと考えていた。
現に遠見の魔法で見るこの国は、戦国乱世の様相を呈していた。
徐々に広がる結界のほころびも、魔が通過しやすくなっている。
直ぐに魔による人間狩りが始まる。

まあ、どうせシャロンに泣きつかれて、魔を滅ぼすことになるのだが、それまでは人間が本能のままに奪い合い殺し合えばいい。
シャロンを苦しめ追放した人間には当然の報いだと考えていた。
それよりも大切なのは、シャロンとの楽園をどのように築くかだった。
他の人間を寄せ付けず、二人で楽しく暮らせる場所がいいと思っていた。

だが人間が全くいないと、シャロンが寂しく思うかもしれない。
そうシャロンが口にしてしまったら、人を集めてしなう自分がいる事も十分理解していたので、そう言われないように、楽しい場所にしなければいけない。
当然、見た目も美しく、声も奇麗な動物を、できるだけ集めなければならない。
虫も同じで、鮮やかな色彩で、美しい音色を奏でる翅をもつ虫がいい。

神龍は世界各地からたくさんの動物や虫を集めた。
そのために多くの神と心話で話し合った。
時に神使を送って直接やり取りもした。
その時に近隣の守護神から、魔がこの国から漏れないように依頼されてしまった。
人間などどうでもいい神龍だったが、他の神々には多少気を使う。

それに、白と黒の熊や、赤と碧の鳥、金銀に輝く鳥、真っ赤な犬や真っ青な猫など、多くの動物や虫を集めるためには、他の神の同意が必要だった。
昔のように神々の戦いを引き起こしても、他の神に負ける気はしないが、神々の戦いに巻き込まれてしまったら、人間のシャロンなどひとたまりもない。
そう思えば、少なくともシャロンが天寿を全うするまでは、神々の戦争を引きおこすわけにはいかなかった。

(ねえシャロン。
遠くの国の神が、珍しい白と黒の熊を届けてくれたんだ。
実りの大地に変えた荒地に行ってみてみない?)

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