「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第7話4日目の出来事1

「今の話は本当なのだな?!
間違いはないのだな?!」

「そう厳しく仰られても困ります。
臣は噂をお伝えしたにすぎません。
陛下が厳しくご下問されようと、真実など分かりはしません。
今まで全ての政務を、王太子殿下と宰相閣下に丸投げされてきたのです。
廷臣の全てが陛下ではなく殿下と閣下を恐れています」

「おのれ、おのれ、おのれ!
余を蔑ろにすると言うのか?!
あくまでも権限を一時的に貸し与えているだけじゃ!
この国の国王は余である!
逆らう者は、余自ら成敗してくれる!」

「不可能でございます。
そのような事をしようとすれば、密かに殺されるだけでございます。
愚かな言動をされれば、臣の力でも庇いきれませんぞ」

ロナンデル王国国王ロイリダは苛立っていた。
今迄の自分の乱行を棚に上げて、王太子エドワドと宰相を務めるモドイド公爵ライリダの失政を罵っていた。
そもそも自分が守護龍の加護を得られなかったのが悪いのだ。
政務を放り出し、後宮で酒池肉林にふけっていたのが悪いのだ。

だが国、いや、ロナンデル王家が追い込まれ、反省して挽回しようとするくらいの、最低限の判断はできた。
未だに権力闘争に明け暮れ、混乱した敵対派閥の貴族士族を潰すことだけを考えている、王太子や宰相よりは少しだけましだった。
五十歩百歩ではあったが。

全てを王太子と宰相に丸投げしたかに見える国王だが、切り札だけは握っていた。
王家王国の暗部を支配する斥候団。
忍者とか刺客とか呼ばれる者達は、未だに国王だけに仕えていた。
これに神龍の守護はあれば無敵なのだが、それが得られるほど純粋無垢な性格には生まれ育ってなかった。

斥候団が集めてきた情報の中に、今迄全ての報告を無視してきた国王でも、無視することができない情報があった。
王太子が追放したシャロンが、守護龍の間に入っていたという情報だ。
魔が城内に現れ、次々と人間の身体を腐らせて殺し、その遺体が食屍鬼となって生きた人間を襲うというよ状況になれば、守護龍に見捨てられたのは明らかだった。
守護龍が追放されたシャロンについていった事くらい、容易に想像できた。

このままでは、もっと強力な魔が地上に現れるのは間違いない。
食屍鬼が骨屍鬼となり、やがては人間では斃せない死霊になる事だろう。
それを恐れた国王は、王太子と宰相を殺し、シャロンを呼び戻そうと考えた。
養女にして王家に取り込む事も考えていた。
だがあまりに長く政務を放り出し過ぎていた。
王太子と宰相の取り巻きを切り崩して、味方に加える事から始めなければいけなかった。

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