「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第5話2日目の出来事2

「ウギャァァアァァァア!」

王宮の侍女が、女とは思えないような絶叫を放った。
その場にいた者が無条件に侍女の方をみた。
侍女は地に倒れて七転八倒している。
のたうち回る事で身体が傷つきのも構わず、暴れていた。
最初は誰にも何が起こっているか分からなかった。
なかには侍女が発作を起こしたのかと思う者もいた。
ある者は侍女が乱心したのだと思った。

だが直ぐにそれが間違いだという事が分かった。
侍女の身体の一部が黒く変色しだしたのだ。
変色しただけではなく、腐りだしたのだ。
侍女は生きたまま身体が腐っていく激痛で苦しんでいたのだ
しかもその速度は以上に早かった。
皮膚だけではなく、肉まで腐っていった。

「ウギャァァアァァァア!」

別の場所からも絶叫が起きた。
今度は侍従だった。
侍従も地に倒れて七転八倒していた。
同じだった。
侍従も身体の一部が黒く変色していた。
侍従も生きたまま身体が腐っていく激痛で苦しんでいた。

「ウギャァァアァァァア!
ガシャガシャガシャ!」

今度は近衛騎士だった。
近衛騎士も地に倒れて七転八倒していた。
近衛騎士も同じだった。
身体の一部が黒く変色していた。
生きたまま身体が腐っていく激痛で苦しんでいた。
板金鎧を装備しているだけに、暴れまわって鉄が打ち付けられる音が響いた。

「疫病だ!
疫病が起きだぞ!」

誰だか分からないが、この状態を疫病だと思った者がいた。
聞こえる場所にいた者は全て逃げ出した。
王宮や王城に勤める者の大半が、忠誠など投げ捨てて、一斉に逃げ出した。
その勢いは誰にも止められなかった。
いや、近衛騎士ですら、ごく一部の者を除いて、役目を捨てて逃げ出した。

全く同時に起きたわけではない。
多少の時間差があった。
だが同時多発的に身体が腐るも者が現れ、どこでも誰かが疫病を思い出した。
伝説にある、多くの者が信じていなかった、ロナンデル王家が守護龍と盟約を結ぶまでは、この地域に荒狂っていた魔による疫病を思い出した。

そしてそれは真実だった。
龍神がこの城を離れたことで、結界の網の目がほんの少し広がった。
ほんの少しなので、そこから出られる魔はとても限られていた。
幽体や液体で、細かい網の目を抜けられる魔だけだった。
だがその魔が、人間には恐ろしい相手だった。
幽体の魔に襲われた人間は、体の表面と気管から肺、食道から胃、小腸大腸と溶かし喰われていった。
その激痛は、とても人間が耐えられるような痛みではなかった。
それがまた新たな恐怖を生むことになった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品