「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第6話3日目の出来事1

(ちょっと食事に行ってくるよ)

(分かったわ。
私の事は気にしないで、身体を元に戻して、伸び伸びとしてきて)

(気にしないなんてできないよ。
僕が一番大切に思っているのはシャロンの事だからね。
だから安心できる護衛をつけるからね)

(ありがとう。
でも無理はしないでね)

(全然大丈夫。
無理なんかしていないよ。
じゃあ護衛を出すからね)

(ええ、ありがと)

神龍は結構きれい好きでマメだった。
自分の部屋として与えられていた、守護龍の間が汚いのは許せなかった。
だから排泄する時は奈落に向かってした。
それはよかったのだが、問題は脱皮だった。

脱皮で残される鱗や皮を奈落の捨てるのは嫌だった。
奈落の魔が自分の脱皮を喰ったり利用したりするのが許せなかった。
それは人族が相手でも同じだった。
だから全部取ってあった。
自分で食べるという方法もあるのだが、それも嫌だった。
そこで全ての脱皮を魔法袋に入れて保管してあった。

今回はその脱皮を利用することにした。
特に鱗を利用した。
シャロンの護衛用に、百の神龍鱗兵を創り出したのだ。
普通の竜牙兵でも、並の騎士を歯牙にもかけな強さなのだ。
神龍の鱗兵なら、選び抜かれたドラゴニュートの戦士でも勝てないだろう。

「シャロン様。
お食事の用意ができました。
入って宜しいでしょうか?」

「ええ、どうぞ、入ってください」

シャロン達は村長の家を占拠していた。
村長の家族は、使用人の部屋で寝起きしている。
シャロンが望んだことではないが、元々貴族士族がたずねた時の常識だ。
だからシャロンも仕方なくその常識に従っていた。
だが問題はそこではなく、護送役の近衛騎士も村人も、神龍鱗兵の事が全く見えていない事だった。
これも神龍の魔法だった。

ここまでシャロンの事を大切にする神龍だから、自分が食事に行っている間の護衛はもちろん、食事の内容にもとても気を使っていた。
シャロンの好きな料理を好きなだけ食べられるようにしていた。
前後のメニューも考慮して、毎食の献立を考えていた。
いま近衛騎士は運んできた料理がそうだった。

カチカチになったパンを皿代わりにして、熱々のステーキが運ばれてきた。
シャロンのために村長が大切に育てていた豚が潰されて料理されたのだ。
熟成はしていないが、新鮮な豚ロース肉が、適度な脂肪を残して焼かれている。
少し硬いが、ナイフで切れば噛み切れないほどではない。
甘みの強い脂肪の味と、赤身肉の旨みがシャロンの口一杯に広がる。
とても美味しいはずなのだが、それほど美味しく感じられない。

(やっぱり龍ちゃんと一緒じゃないと美味しくないのかな?)


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