「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第4話2日目の出来事1

「シャロン様、食事の用意ができました」

「ありがとう」

シャロンは近衛騎士の先導で村長の家に案内された。
先触れが村長の家に行き、食事の用意を命じていたのだ。
明らかに異常な状態だった。
シャロンは厳罰を受けて追放される身だ。
普通与えられるのは、奴隷が食べるようなカチカチのライ麦パンと、屑野菜が少し浮かぶだけのスープだ。
それが村長宅で用意できる最高級の料理が用意されている。

しかもシャロンの身体には、小さくなった龍神が巻きついている。
幸せそうにシャロンの頬に頭を寄せている。
それを近衛騎士達も村長達も全く驚いていない。
全員龍神の力で惑わされていた。
自分達が護衛し歓待しているのは、国王陛下だと思い込んでいた。

(とても美味しいは、龍ちゃん。
こんな美味しい料理を食べたのは久しぶり。
ありがとう、龍ちゃん)

(食べたい物があったら言ってよ。
先触れを行かせて作らせておくよ)

(私、好き嫌いはないの。
なんでも美味しく食べられるわ。
毒を盛られる心配がないのなら、それだけで御馳走よ)

(そうだったね。
悔しかったね。
哀しかったね。
僕が復讐してあげるからね)

(復讐はしたいけど、罪のない人は巻き込まないでね。
なかには家族を護るために、仕方なく加わった人もいると思うの)

(分かっているよ。
シャロンを哀しませるようなことはしないよ)

龍神は心話でそう伝えたが、大きな問題があった。
人間と龍神では全く価値観が違うのだ。
龍神にとっての人間など、人間から見た蟻以下だ。
しかも大切なシャロンを苦しめた人間、それに加わった人間、見て見ぬふりをして助けなかった人間、全て抹殺対象でしかない。
個々の事情など全く考慮する気にはならないのだ。

龍神が考え望むことは、シャロンを幸せにるする事だけだった。
シャロンを気に入った理由など、龍神自身にも分からない。
龍神が創った結界を超えられるだけの聖なる人格であることも大切だが、それはあくまで条件だけの話だった。
龍神自身がシャロンを気に入った、それだけが大切だった。

龍神は常にシャロンの側にいたかった。
四六時中側にいたかった。
だがそうもいかなかった。
龍神は莫大な力を持っているが、その分大量の食事を必要としていた。
ロナンデル王家を守護するためにいた場所は、多くの力を使うが、同時に莫大な食事を得ることができる場所でもあった。
溢れ出ようとする魔を食べることができた。

だが今は食べる物を他で探さなければいけない。
シャロンの側にいたくて小さくなっているので、多くの力を使ってしまう。
だがどれほどお腹がすいても、ロナンデル王家のために魔を喰う気にはならない。
それで一計を案じた。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品