「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第2話初日の出来事2

(龍ちゃん。
龍ちゃんがこの国を出てしまって大丈夫なの?
この国が亡んだりしない?)

(大丈夫、大丈夫。
ちょっと天災が起きたり魔獣が現れたりするけど、人間はしぶといから。
図太くて穢くて小狡いから、滅びたりはしないよ)

(全然大丈夫な気がしないんだけど?
私は大丈夫だから、この国に残ったらどう?
何か約束があるんじゃないの?
約束を破って、龍ちゃんが罰や制裁を受けたりしない?)

(そんな事にはならないよ。
元々先に約束を破ったのは、ロナンデル王家だからね。
毎日祈りを捧げ、僕に挨拶に来ると約束したのに、もう十年も来ていないからね)

(十年て、先代の王妃様が亡くなられてからよね?)

(そうだね。
あの子は傍系の王族だったから、一応王家の人間だからね)

「なにを惚けている!
さっさと出ていけ!
お前の顔など見たくない。
いや、側に近寄られるのも嫌だ。
さっさとこの国から出て行け!」

守護龍と魂を通わせていたシャロンは、裁かれた直後であるにもかかわらず、王太子も陪審員の貴族も無視していた。
何を言っても無駄だと分かっていたので、時間を過ぎるのを待っていただけだったが、それが堂々としているように見えていた。
シャロンが泣き叫び温情を乞う姿を期待していた王太子を、苛立たせていたのだ。

だがようやく王太子が満足できる光景が目の前に現れた。
近衛騎士達がシャロンを腕を拘束し、荒々しく裁きの間から連れ出したのだ。
これが王太子の嗜虐心を大いに刺激した。
それは劣情として現れ、その欲望に満ちた目が、シャロンの後姿を捕えた。
王太子が近衛騎士を呼び止め、詳細な取り調べを寝室で行おうと考えた瞬間。

「殿下。
お疲れになられたのではありませんか?
寝室でお休みになられた方がいいと思われます
私がご一緒させていただきますから、直ぐにお休みになってください」

シャロンの後姿を見て激しく劣情をもよおした王太子だったが、近寄ってきたジェスナの体臭を嗅いだとたん、劣情はジェスナに移った。
ジェスナが王太子を虜にした小道具、媚薬の香水だ。
あまりにも激しい効果と副作用で、多くの国で危険薬物として取り締まられている媚薬を、ジェスナは王太子に使っていたのだ。

明らかな犯罪行為だった。
この媚薬はロナンデル王国でも厳しく禁じられているのだ。
だがそれを取り締まる人間がいなかった。
今ロナンデル王国で一番権力を持っているのは、モドイド公爵だ。
そのモドイド公爵の娘が、王太子を籠絡するために媚薬を使っても、後難を恐れて誰も訴えたりしなかった。
それがこの国を混乱と不幸に陥れた要因の一つだった。

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