「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第10話

「ならば私が個人的に匿わせてもらう。
私もセイラ嬢も学院を退学する」

「いえ、それは」

「待ってください、アレクサンダー殿下」

「行くぞ、セイラ嬢。
もうこのようなところにようはない!」

アレク、いえ、アレクサンダー殿下の捨て台詞に、学院長が戸惑い、理事長は顔面蒼白となっています。
これではっきりしましたね。
アレクことアレクサンダー殿下は王族か皇族です。
私の予想通りでした。

ここはアレクサンダー殿下に従うのが最善でしょう。
理事長を擁立して学院を私的に動かすくらいの力があるのです。
学院長は不愉快に思っていたようですが、現実には逆らえません。
その事は私自身よく分かっています。
問題は私のこれからの運命です。

「アレクサンダー殿下。
そろそろ本当の身分を教えていただけませんか?」

「そうか、そうだな。
最初に謝っておく。
だまして悪かった。
だが私にも色々と事情があって、正体がバレると命の危険があったのだ」

まあ、それはそうでしょう。
私の知る範囲、アレクサンダー殿下はいつも一人でした。
護衛の騎士はもちろん、盾になってくれる侍従もいません。
このような状態で正体を知られるわけにはいきません。

問題は、ここまでして学院に来なければいけなかった理由です。
それと、普段からこのように不用心かどうかです。
元々の性格がガサツで、安全に配慮しない性格なら、絶対に命を預けるわけにはいきませんから。

「はい、その事は理解しております。
ですが、事ここに至っては、身分を明かしてくださるべきではありませんか?」

「セイラ嬢の言う事はもっともだ。
私はセントウィンルストン皇国の皇太子アレキサンダーだ。
私には幼い頃から魔力があった。
第一皇子に生まれたから、直ぐに魔力があることを確かめられた。
秘密も護れたし、十分な魔術教育もうけられた。
だからここに来るときも、一人でも安全を確保できた。
だがどうしても耐えられない事があったのだ」

耐えられない事ですか。
大体予想できますが、断言はできません。
ただ一つ安心できるようになりました。
ガサツな性格で一人だったのではないのですね。
魔力と魔術による絶対の自信があったのですね。
問題はその自信の根拠が間違っていないかどうかですね。

「なにが耐えられなかったのですか?」

「一人だという事だ。
この世界に魔力があって魔術が使えるのが私一人だという事だ。
私は、稀人で、分かりあえる人が一人もいない。
それはとても寂しく哀しいものだ。
父上も母上も、私を畏れて他人行儀なのだ。
それでなくとも親子の情が薄い皇族が、他の兄弟姉妹以上に他人行儀なのだ。
だから私は、同胞を探し出すと誓ってここに来ていたのだ」

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