「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第10話

私は全面的にマクシムの意見に従いました。
個人的な恨みを晴らしている場合ではないのです。
アイディン王太子達から受けたことに対する報復など、私の個人的な気持ちの問題で、苦しんでいる人を助けるのには、何の役にも立ちません。
不可触民を助けることが最優先です。

私は大泣きしました。
苦しんでいる民の事を想い、大粒の涙をとめどなく流しました。
その全てが希少色の大粒真珠の変じました。
売れば莫大な富となります。
ですが普通に売るのが困難なほど希少な真珠です。

ここで自由戦士ギルドと不可触民ネットワークが役に立ちました。
自由戦士ギルドがその強さで手に入れたことにして、自由戦士ギルドの名と強さを背景に売るのです。
彼らも一割の礼金が入るので二つ返事で引き受けてくれました。

不可触民は、高値で買ってくれそうな国や地域まで、幌馬車で運んでくれました。
販売代金で大量の食糧を買いつけてくれました。
転売すれば高値になる商品を仕入れてくれました。
少々の礼金で裏切ることなく働いてくれました。
全ての利益が、不可触民のための国造りに使われると、カミーユが保証してくれたので、ほとんどの不可触民が疑うことなく協力してくれたのです。

商人のように、真珠売買を基本に大陸を行き交う不可触民と、未開地に来て国造りにまい進する不可触民に分かれました。
誰かが食糧や武器や生活物資を確保しなければ、未開地の開発開拓開墾など不可能なのです。

未開地に集まってくれた、百万人を超える不可触民を養う事は、並大抵の事ではありませんでした。
ですが最初から百万人も集まったわけではありいません。
最初は千人単位で数万人でした。
それがいつしか、大陸中の不可触民と貧民が集まる状況となっていったのです。
全員に三度三度満腹になる食事を与えたことが原因でした。
いくら泣いて真珠を創り出しても追いつかないくらいでした。

ですが途中で受け入れを拒むことなどできません。
皆どこにも行く場がないのです。
それに、数は力です。
どれほどの大国であっても、百万もの人間を相手に戦争など仕掛けられるモノではありません。
未開地にたどり着くまでの経済的負担はもちろん、戦争で受ける損害も国を滅ぼすほどのモノになります。

「アジュナ嬢。
ちょっと野暮用ができた。
クロフォード王国に行ってくるわ」

「私の恨み事なら放置しておいてください。
それよりは未開地の防衛を優先してください」

「今のこの国を攻めるバカはいないよ。
それよりは自由戦士ギルドの面目を立てないといけない。
ようやく準備が整った。
俺は自由戦士の責任を果たしに行くのさ」

「必ず生きて戻ってきてください」

マクシムがアイディン王太子たちを殺してくれるそうです。
もう私にはどうでもいい事なのですが、この国を護るために必要な事なら仕方ありませんね。

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