「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第9話

マクシムは最初から私たちに同行するつもりだったようです。
私を護衛するつもりだったのでしょう。
ですが、慎重な性格なのでしょうね。
自由戦士ギルドの幹部から話を聞き命令を受けても、自分で直接確認しなければ、心から信用しないのです。
少しでも疑わしいところがあれば、依頼も命令も聞かない覚悟があるようです。

「カミーユ、マクシム。
不可触民が差別されることのない国や土地を知りませんか?
そんな国や土地があるのなら、私が資金を用意しますから、移住させたいのです」

カミーユが少し悩んでいます。
マクシムは不審そうな顔をしています。
修道院送りになった私に、資金があるのか疑っているのですね。
それが当然の反応ですが、カミーユは以前に渡した真珠を思い出して、私に隠し財産があると考えているのでしょう。

「心配しなくていいですよ。
今では偽者とは言われていますが、以前には聖女と呼ばれた時期があるのです。
それなりの支援者もいれば、隠し財産もあります。
その全てを使えば、ある程度の不可触民を助けることができるのです」

「アジュナ様が考えるような理想の国も自由な土地もないね。
私の知るどんな国も、程度の差はあっても不可触民を差別する。
土地というのは、辺境の独立領主の事を言っているのかもしれないが、どこの国にも属さない独立領でもあっても、不可触民は差別されるのよ」

「そう、そうなのね。
今の仕組みのままでは不可触民は救われないのね」

「そうだな。
アジュナ嬢とカミーユ嬢の言う通りさ。
どうしても不可触民を助けたいというのなら、自分の力で新たな国を興すか、せめて完全自治権をもった領主になる事だな」

「それは、辺境に赴いて未開の地を開発しろという事ですか?」

マクシムの言う事に目から鱗が落ちました。
確かに人に頼るばかりでは何もできません。
国も同じだったのです。
すでにある国や領主に頼るのではなく、自ら国を興すか独立領主になれば、自分の理想の政策を行えるのです。

「言うは易し、行うは難しさ。
開拓当初数年は、自給自足もできなくて、食糧を購入しなきゃならない。
猛獣の襲撃を自分の力で撃退しなきゃならん。
ある程度開拓開墾が成功したら、今度は同じ人間が襲ってくる。
盗賊はもちろん、国や独立領主が、開拓開墾が終わった農地を奪おうとする。
国に見逃してもらうには、その国の法律に従い、しかも税を納めないといけない。
早い話が、不可触民を差別する政治を強制されることになるのさ」

「それでも、マクシムが口にした以上、可能性があるのですね?
マクシムが考えている可能性を教えてください!」

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