「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第7話

「卑怯者め!
不可触民を味方にしやがって!」

「卑怯者はお互い様さ。
あんたも私もクズなんだよ。
クズ同士が罵りあっても虚しいだけさ。
さっさと終わらせちまおうぜ」

「今さら善人ズラしやがって!
てめえも俺と同じ汚れ役だろうが!
汚れ役が今更心入れ替えてどうする!」

「そんな事は分かっているさ。
ただね、ようやく死に場所を見つけたんだよ」

「だったらここで死にやがれ!」

刺客が現れました。
最初は矢による奇襲を準備していたようですが、不可触民の偵察が、潜んでいる敵を見つけ出し、先手を取って半壊させてくれました。
いえ、一人を除きて皆殺しにしてくれました。
二十五人の敵を、一人を除いて殺してくれたのです。
不可触民の戦闘力には驚かされました。

それに不可触民は引き際も心得ています。
自分たちでは勝てない相手、たとえ斃せるとしても、仲間に犠牲者が出る相手とは直接戦おうとはしません。
強敵をカミーユの方に誘導するのです。
カミーユもそれを当然のことのように受け止めています。

敵がカミーユを罵っています。
どうやら顔見知りのようです。
同じような役目を担っていたのでしょう。
もしかしたら、心の通い合った仲なのかもしれません。
組織に汚れ役を押し付けられた者同士、心に支えにしていたのかもしれません。

それが、私のためにカミーユは組織を裏切ってくれました。
彼女が高名な自由戦士ギルドを裏切ってくれるとは思ってもいませんでした。
私も公爵家の令嬢です。
自由戦士ギルドといえど、いえ、自由戦士ギルドだからこそ、奇麗ごとばかりでは組織を維持していけない事は知っています。

その自由戦士ギルドの裏を、カミーユは知り尽くしているのです。
そんなカミーユの裏切りを、自由戦士ギルドは絶対に許さないでしょう。
カミーユは私のために死を決意してくれたのです。
私はその尊い行為に報いなければなりません。
そのためには、私のどんなところをカミーユが認めてくれたのか知らなければなりませんが、恐らくは貧民や不可触民に対する恵みでしょう。

これは想像でしかありませんが、カミーユの言動を思い出せば、カミーユは不可触民の出身だと思われます。
ならば私のなすべきことは、不可触民を助ける事です。
不可触民を願いをかなえる事です。
直接聞いて確かめる必要がありますが、不可触民の念願は自分たちの国を創り出すことでしょう。

「ギャァァァァアァアァアア!」

カミーユが自由戦士ギルドの追っ手を一刀で斃しました!
同じ自由戦士ギルドの刺客を簡単に退けてしまいました。
もしかしたら簡単ではなかったのかもしれませんが、私の眼には、カミーユが自由戦士ギルドのなかでも突出した戦士のように思えます。

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