「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第3話

腹が立つ!
無性に腹が立つ!
この国の指導者の愚劣さに腹が立ち。
だが誰よりも一番腹が立つのは、自分だ。
自分のやっている事に反吐がでる!

どう考えても今回の件は王家の謀略だ。
本物の聖女を陥れて、自分たちに都合のいい偽聖女を擁立したいのだ。
そして私がその陰謀い加担して手を貸している。
自分の汚らしさにはらわたが煮えくり返る!

「おやじさんはなんでもよく知っているなぁ。
正直ただの屋台のオヤジに思えないぜ」

「ただの屋台のオヤジだから知っているんだよ。
女房子供を守り養っていかなきゃならないんだ。
どこの領主が慈悲深くて、どこの領主が暴虐かを知らなけれ、いざという時に逃げだす場所も決められなくなる。
聖女様が力を失われて、俺たちのような屋台にお恵みの金が流れなくなった。
新たな聖女様が現れたという噂はあるが、一度もお恵みが行われていない。
どうにもきな臭い。
不可触民の連中はこの国を逃げ出す準備をしている。
俺も家族を連れて逃げだす事も考えているからな」

「そりゃあ問題だな。
不可触民が国を逃げ出す準備をするなんてよほどだぞ」

「ああ、知り合いにも声をかけているんだが、下手に財産を持っている者ほど逃げたがらないんだよなぁ」

それはしかたがないですね。
不可触民が危機を察して直ぐに逃げられるのは、何も持っていないから。
市民権も家もないからこそ、命を最優先に考えられる。
やれる仕事も限られているから、土地に縛られずに生きて行けるけれど、土地に頼る事ができないから、自分に力をつけるしかない。

「さあ、あるだけの肉を焼いちまった。
もうこれでお恵みは終わりだ。
このお嬢様にお礼は言ったか?」

「「「「「お嬢様ありがとうございます」」」」」

「どういたしまして。
みなの人生に幸あらんことを」

「アジュナ様。
満足されたら宿に向かいたいんですが」

横からくちばしを入れてきた御者に腹が立つ!
私にそんな事を口にする資格がないことなど分かっている。
分かってはいるが、今の光景を見て、そんな蔑んだ口調と顔つきでアジュナ様に先を急がすなんて、人間の情を持っていないのか?!

「待たせてしまってごめんなさいね。
もうそろそろ王都が恋しくなる頃よね。
でも安心してくれていいわ。
もうそれほど長くは待たなくていいと思うの。
そうよね、カミーユ?」

恥ずかしい。
こんな汚れ仕事を引き受けた自分が恥ずかしい!
確かに次の街までに殺すと言う契約だった。
だがどうしてそれがアジュナ様にバレているんだ?
私の口調や態度からバレていたのか?
私はそんなに動揺していたのか?



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