「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第2話

「嘘をつくな、宰相。
日当を払う気がないのは精霊の判定で分かっている。
我々を騙して働かせ、最後は口封じで殺す気であろう!
教会の神官戦士を相手に嘘をつくとはいい度胸だ」

「ウ、嘘ではない!」

今まで平気で嘘をつき人を騙し、時には騙し討ちしていたのであろう。
嘘をつくことも人を殺す事も日常茶飯事の下劣な性格なのだろう。
そんな悪人でも、いや、悪人だからこそ、私の言葉に動揺したのだな。
教会の神官戦士に嘘つき悪人認定されたら、その悪評をそそぐのは難しい。
もっとも、宰相という地位にいる者には悪評にならないかもしれない。
それに、この国の教会は救いようがないほど腐敗しているとも聞く。
汚名をそそぐために、国内の枢機卿か大司教に聖人認定させるかもしれないな。

「すきに言ってろ。
みなもすきに判断しろ。
その宰相を信じるも、神官戦士エマを信じるも、みなの自由だ」

「俺はエマを信じるぞ!
俺はこの国の冒険者戦士ジェームズ・ヘイグだ。
宰相には、行方不明になられている第一王子リアム殿下を殺した疑いがある。
主君を殺したと国民が噂するほど信用のない奴だ。
それに比べてエマ殿の評判はどうだ?
少しでも冒険者の世界で生きているなら、エマ殿の武勇伝は聞いているだろう?
だったら、どっちを信用するかは明々白々だ。
騙し討ちにされれるのが嫌なら、とっとと帰ることさ」

「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!
冒険者の分際で、宰相の余を嘘つきと申すか!
この無礼者を斬り捨てよ!」

この宰相は真正の馬鹿なのでしょうか?
ここでこんな事を言えば、決定的に冒険者に離反されると、理解できないほどの馬鹿なのでしょうか?
そんな人間に宰相が務まるとは思えないのですが?

「「「「「は!」」」」」

謁見場を警備していた騎士と徒士が、力強く返事しました。
ですが宰相の周りを固めていた者たちと、入り口を確保していた者たちは、持ち場を守るために動きません。
周囲の壁際に立ち、私たちに備えていた騎士と徒士が一気に襲い掛かってきます。
馬鹿な者たちですね。

全然実力差が分かっていません。
王国の騎士だ徒士だと威張っていても、命を懸けたギリギリの実戦を経験していないのでしょう。
武装もしていない、商人や農民から税を取立てるくらいしかやっていない、張りぼてのような騎士や徒士なのでしょう。

少しでも実戦を経験し、命の危険を経験すれば、一番最初に自分と相手の力量差を見極めようとするものです。
ここにいる冒険者の多くが、高価な板金鎧を装備している騎士よりも強いのは、駆け出しの冒険者でも理解できなければいけないことです。
まあ、そんな事は今更どうでもいいです。
降りかかる火の粉は払うだけです!

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