「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第3話

「何か不自由はありませんか?」

「ありがとうございます、エド様。
お陰様で快適に過ごさせていただいています」

「それはよかった。
何かあれば、どのような些細な事でも気にせず言ってください。
令嬢のために働くのは騎士の務めですから」

「ありがとうございます、エド様。
何かあればそうさせていただきます」

嘘ではありません。
本当に快適な生活をさせていただいています。
国を追われると決まった時には、このような生活ができるとは、想像もできませんでした。

エド様と呼ばせていただいていますが、本当はもっと貴族らしいお名前なのだと思います。
今私がお世話になっている屋敷は、別邸なのだと思います。
御両親や御兄弟など、誰一人一族の方がおられません。
働いている家臣や護衛の家族もいませんから、別邸に静養に来られているときに、私の騒動に巻き込まれてしまったというところでしょう。

騎士としか名乗られていませんが、普通の騎士が同格の騎士を家臣にできるはずがありません。
エド様自身か家が爵位を持たれているのでしょう。
騎士を護衛にしておられるのですから、最低でも男爵以上、護衛騎士の数と質を考えれば、伯爵以上だと考えられます。

「それで、そろそろ話してもらえませんか。
事情まで話してくれというのではありませんよ。
どんな手伝いをして欲しいのか教えてもらいたいのです。
全くの偶然ではありますが、危急の時を出会いました。
これも神の啓示かもしれません。
騎士たるもの、令嬢のために力を貸すのは名誉です。
それに、まあ、私にも事情があるのですよ。
正直に言いますと、聖騎士になりたいのです。
聖騎士になるには、色々と徳を積まねばなりません。
善行を重ねないといけません。
パオラ嬢を助けたいというのは、私の都合なのですよ。
だから遠慮せずに言ってください」

エド様の申されることが嘘か本当かは分かりません。
全くの嘘ではなくとも、私が助けを求めやすいように、脚色してくれているのかもしれません。

さてどうするべきでしょうか?
本当の事を言うべきでしょうか?
本心を言えば、エド様に助力して頂けたら助かります。
ですが、他国の問題に介入されると、エド様の立場が悪くなります。

まあ、事情を正直に話したら、エド様も助力してくださらない可能性が高いです。
マネル王国の貴族がオートヴィル王国の貴族の問題に介入する。
明らかな国際問題です。
戦争にまで発展するかどうかは別にして、エド様もエド様のご実家もお立場が悪くなります。

エド様が聡明なのはお話ししていて直ぐに分かりました。
心正しい方なのも間違いありません。
国や家を傾けるような判断はされないでしょう。
全て正直に話して、どうするか決めていただきましょう。
それでここから出て行ってくれと言われても仕方がありません。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品