「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第2話

「何をしている、卑怯者!
大の男が徒党を組んで御婦人一人を襲うなど、恥知らずにもほどがあるぞ!」

もうだめかと思った時に、救いの神が現れました。
白馬の王子様に憧れたのは遥か昔ですが、目の前には白馬に乗った方がいます。
王子かどうかは分かりませんが、貴公子然とした方です。
貴公子の言葉とともに、護衛であろう方々が、一斉に私を殺そうとしていた刺客に攻撃を仕掛けます。

板金鎧を装備していませんから、重騎兵の槍突撃とまではいきませんが、鍛え抜かれた騎士が、槍を手に馬に乗って襲い掛かってくるのです。
狙われた刺客はとても怖いでしょう。
刺客に囲まれている私も、巻き込まれるのではないかと、とても怖いです。

「散開!
遊撃!」

刺客の頭だろう男が、配下に指示しています。
私の防御魔法を突破できずに、長期戦で私の魔力が尽きるのを待つつもりだったのに、援軍がきたので戦法を変えるのでしょう。

「あぶない!
逃げてください!
私より御主人様を護って!」

私はてっきり刺客達が騎士を迎撃するモノだと思いました。
それが、騎士達に私を救うように指示してくださった、貴公子を攻撃するなんて!
これが刺客の遣り口だなんだと思い知りました。
もつとも弱いところを攻撃するのが刺客のやり方なのですね。
私のせいで、心正しい貴公子が殺されてしまうなんて!

「心配いりませんよ、御嬢さん」

貴公子は慌てず騒がず悠然と刺客達を迎え討たれました。
私の生まれ育った国の貴族とは全然違います。
その姿こそ本当の貴族だと思いました。

「魔矢陣」

貴公子が呪文を唱えられました。
魔法の呪文でした。
貴公子の周りに無数の魔法の矢が現れ、一斉に刺客に向かって飛んでいきました。
絶対に狙いを外さない魔法の矢です。
刺客に逃げる道はありません。

いえ、刺客達は逃げたりしませんでした。
彼らは魔矢が必ず当たると知っているので、攻撃を受けながら貴公子を殺そうとしたのです。
ある意味とても潔いと言えるかもしれませんが、自分の負傷と引き換えに狙った相手を殺そうとする、暗い執念を感じました。

「無駄だよ。
君達はもう死んでいる」

貴公子の言葉通りでした。
魔矢の攻撃を受けた刺客達はその場で絶命しました。
あまりの事に言葉も出ません。
魔矢は素早く発動できますが、弱い魔法なのです。
狙いを外さない事に魔力を使うので、殺傷力は低いのです。

しかも一度に多数の魔矢を発動させる「魔矢陣」です。
一つ一つの魔矢の威力は限定されています。
それなのに、たった一つの魔矢で刺客を絶命させるとは、信じられない魔力です!

「御嬢さん、よければ私の屋敷に来ませんか?
聖騎士としてこのまま見捨てるわけにはいきません」

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