「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第1話

「申し訳ありません、パオラ様。
私はここまでしか御一緒できません」

レベッカが悔しそうな表情を浮かべてくれています。
でもレベッカが気にするような事ではありません。
妹に陥れられたのも、父母に見捨てられたのも、王太子に裏切られたのも、全て自己責任です。

「気にしなくていいのよ、レベッカ嬢。
私が馬鹿で弱かったから、こんなことになったの。
貴族なら、父母兄妹だって踏み台にして生き残らないといけないの。
でも分かっていても私には出来なかった。
それは私が弱いから。
弱い者はこうして全てを奪われて追放されるの。
レベッカ嬢は負けないでね」

「そんな事はありません!
慈愛に満ちたパオラ様こそ正しいのです。
この国が狂っているのです。
こんな国にはきっと天罰がくだります」

「そんな事を口にしては駄目よ。
王家の耳に入ったら、レベッカ嬢まで追放されてしまうわ。
名残惜しいけれど、陽の高いうちに街にたどり着きたいの。
もうこれでお別れさせてもらうわ。
ここまでありがとう。
レベッカ嬢が護衛してくれなかったら、ミーアか王太子が放った刺客に襲われ、汚辱に満ちた死を迎えていたかもしれないわ。
本当にありがとう。
ぶじにここまで来られたのはレベッカ嬢の御陰よ」

「実の妹が姉を陥れて婚約者を奪うなんて、王太子ともあろう者が婚約者を裏切って、婚約者の妹を寵愛するなんて、恥知らずにも程があります」

「しぃ!
本当にもう黙った方がいいわ。
私は急ぐから、生きていたらまた会いたいわね」

そう。
本当に生き延びる事ができたなら、もっとしっかりとレベッカ嬢に御礼がしたい。
妹に虐めているのを助けただけなのに、そもそも私の妹が悪いのに、ずっと恩に感じてくれて、今回の追放劇の間も最初から最後まで味方してくれていた。
実家のギーター伯爵家からは止められていただろうに。
王都に戻ってから咎められなければいいのだけれど。
いつか御礼したいけれど、御礼をするには生き延びなければならない!

ミーアと王太子アンドレアは必ず刺客を放ってくいるわ。
自国領内で殺したかったのでしょうが、レベッカ嬢が付いてくれていたから、ギーター伯爵家を敵に回したくない刺客が、自重していたのだと思う。
刺客も馬鹿ではないでしょうから、レベッカ嬢を巻き込んでしまって、王太子とギーター伯爵家の争いになった場合、王太子が簡単に刺客を見捨て斬り捨てる薄情者だという事は、重々分かっているはず。
だからオートヴィル王国内では殺そうとしなかったけれど、レベッカ嬢の護衛がなくなったら、遠慮せずに襲いかかってくるはず。

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