「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第1話

「アルトリア公爵家令嬢オリビア!
いや、身分すら定かではない捨て子のオリビア!
月神殿の聖女を騙り、私の婚約者となった稀代の悪女!
今迄よくも私や王国を騙したな!
だがもう騙されんぞ!
お前が今日まで呪いをかけて力を封じていた、太陽神殿の聖女が力を取り戻し、お前の欺瞞を明らかにしてくれたのだ!
さあ、正体を現わせ!」

このバカは何を言っているのでしょうか?
以前からバカだとは思っていましたがここまでバカだとは思っていませんでした。
今回の悪事を計画した、ドゼル公爵ボニファー卿も、太陽神殿のクラウディオ大神官も、大切な断罪のセリフを勝手に変えるとは思っていなかったようです。
真っ青になって震えてしまっています。

それもそうでしょう。
月神様が守護されるこの国で、太陽神殿の聖女を名乗って、月神殿の聖女を偽者と罵ったのです。
月神様の守護契約が破棄されるか、月神様の神罰が下るかのどちらかです。
どちらにしても、二人の命運はつきました。

ああ、偽聖女になって王妃になろうとしていた、ドゼル公爵家令嬢ビアータ嬢が恐怖のあまり失禁しています。
それが当然の反応なのですが、バカの王太子は全然分かっていません。
未だに訳の分からない事は叫んでいます。

「ええい、なにをしておるか。
もう悪事は露見したのだ、とっとと偽者の正体を現わせ。
聖女ビアータ、早くオリビアが聖女でない事を証明するんだ」

ああ、ガストーネ国王が王太子のあまりの愚かさに天を仰いでいます。
それはそうでしょう。
聖女であることは、本人が奇跡を起こして証明できます。
聖女でない事も、本人が奇跡を起こせなかった事で明らかになります。
聖女本人でなければ、証明などできないのです。
偽者の聖女ビアータになにかできるはずがないのです。

「ええい、どいつも、こいつも、この場に及んで怖気づきおって。
私は臆病者ではないぞ!
お前のような偽者とは結婚できん。
婚約を破棄する」

ああ、バカ王太子がこの披露宴という公然の場で言い切ってしまいました。
ここには招待された国内外の王侯貴族が集まっているのです。
ミドレル王国国王ガストーネ陛下が、バカな一人っ子の王太子の将来を心配して、守護神月神様の聖女である私を王太子妃にするための披露宴なのです。
ここで婚約破棄を宣言して、ただですむわけがありません。

「王族に二言はないな!
ミドレル王国王太子ビアージョ!
守護神月神様の聖女との婚約を破棄するのだな!
今更嘘偽りだと言ったら、その首捩じ切るぞ!」

ああ、ビアージョ王太子が恐怖のあまり腰を抜かしてしまいました。
よほど怖かったのでしょうね。
でもそれも仕方ありませんね。
威嚇したのは、百九十センチの長身に鋼の筋肉を持つ攻撃魔法騎士です。
近隣諸国でも勇猛果敢と称される、ヴェネッツェ王国王太子ブルーノ殿下です。

守護神であられる太陽神の守護を一身に受けたような、鮮紅の怒髪も深紅色の瞳も赤銅色肌も、太陽神の神罰を現わしているような容姿です。
本質が憶病なビアージョ王太子が、直接対峙できるような方ではありません。
ああ、ビアージョ王太子まで失禁してしまっています。
ビアータ嬢といい、このままでは我が国の王侯貴族が失禁癖があると思われてしまうではありませんか。
まあ、このチャンスを生かして捨て子に戻る気の私には、王侯貴族がどう思われようと関係ありませんが。


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