「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第2話

「やっぱり殺しちまったか。
まあ、当然と言えば当然だな。
かかわりのない俺が外で聞いていても、ぶち殺したくなったからな」

コバーン男爵家のダリウス卿が入ってきました。
ケヴィンと同じく若くして八虎騎士に取り立てられた勇士です。
このような勇士が護衛を務めていたのに、よくケヴィンは音も立てずに中に入ってこられましたね。

「ダリウスが邪魔せず家に入れてくれたお陰だ。
この通り、礼を言う」

「別にケヴィンのためにやったわけじゃない。
罪のない子供を腹にいるうちに殺すと、平気で口にするような外道に仕えるくらいなら、傭兵になった方がましだと思っただけだ。
だが覚悟しておけよ。
八虎騎士が全員俺やお前のように良識を持っている訳じゃない。
卑怯外道な手を使ってでも、手柄を立てようとする者もいる」

「ああ、分かっている。
心を引き締め、以前の自分に戻る」

ケヴィンが心からのお礼の言葉を口にして、深々と頭をさげます。

「八虎騎士コバーン男爵ダリウス卿。
貴男の騎士道精神に助けられました。
庶民の女房がやるのはおかしいですが、私には他の方法が思い浮かびません」

ハルト公爵家を追放されている今の私がやっても、何の価値も意味もないことですが、貴婦人が忠誠を尽してくれる騎士に与える礼、貴婦人の礼をコバーン男爵に対してとりました。

「ありがたき幸せに存じます。
表面だけ取り繕った、見せかけだけの貴族夫人や貴族令嬢に、万余の貴婦人礼を受けるより、ユリア様お一人に礼をして頂く方が遥かにうれしいです。
もうお会いする事はないでしょうが、御達者で」

そう口にすると、コバーン男爵は颯爽と出ていきました。
このような小気味のいい騎士にあったのは、ケヴィン以来です。
八虎騎士全員が同じように漢気のある方ならいいのですが、ケヴィンとコバーン男爵の会話から考えれば、他の八虎騎士は期待薄なようです。

「外にいた連中は全員離れていったようだな。
さすがにダリウスは配下教育ができている。
逆らってここに残るような奴は一人もいないな」

「それは、コバーン男爵は配下と共に国を捨てて傭兵になるという事ですか?」

「……ダリウスは騎士です。
警備すべき王太子を見殺しにして、何の責任も負わず、逃げたりはしません。
正式な裁きを受けるために、リンド王国に戻るでしょう。
配下の者達が全員忠誠を誓ってついて行ったのか、ダリウスを糾弾して出世の足掛かりにしようとしているのか、私にも分かりません。
少なくとも、上司命令や力量差をを無視して突撃するバカがいないくらいの、教育ができているといい事です。
王国軍には実家の地位を笠に着て、上司の命令や力量差をを無視して突撃するバカが結構いたのです」

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