「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第11話

「女将。
私はここの料理が大変気に入りました。
正直毎日食べたい想いです。
ですが永遠にここに投宿する事はできません。
作れるだけの料理を作ってもらって、魔法袋に保管したいのです。
料理人が作れるだけの料理を購入させてもらっていいですか?」

「ありがたくもったいないお言葉を賜り、心から感謝いたします。
料理人達にも、お客様のお言葉を伝えさせていただきます。
今店にある材料を全て使って、料理させていただきます」

「それと狩ってきた素材ですが、一度料理人に全て見ていただきましょう。
その方が料理人の方々も献立を考えやすいでしょう」

「恐れ入ります」

最初女将は、調理室に案内することに難色をしめした。
汚いから見せられないというのではなく、調理室は料理人の聖域であると同時に、秘伝の調理法があるからだ。
一子相伝とまでは言わないモノの、料理屋ごとに知られたくない技術はある。
だが素材が分からなければ料理できないというのも事実だ。
そこで板長、女将の夫が見習とともに部屋にまで来てくれることになった。

「エレノアと私は魔力が多く、狩りが得意なのです。
同じ種類の獲物は数百魔法袋の中にあります。
必要なら数も言ってください」

私の説明を、板長は全く信じていなかった。
女将も笑顔を絶やさないが、信じていないのが見て取れた。
それも当然だろう。
エレノアと私のような若い娘が、僅か一日で幾百もの、実は幾万なのですが、魔獣を狩れるとは思わなくて当然です。
女将が獲物を記念に料理してくれると言ったのも、せいぜい野兎や野狐を想定しての言葉です。

だから最初に度肝を抜いてやりました。
何事も最初が肝心なので、精神的優位を確保しておくことにしました。
部屋を汚してはいけないので、血が落ちないのに気をつけながら、魔牛を魔法袋から出しました。
体高二メートル、体重千五百キロ、魔境に住む魔牛の中でも特に美味しいと言われている、魔旨牛が部屋を占拠するような状況になった。

「な?!
なんだこれは?!
アンタたち二人が本当に狩ったと言うのか?!」

「ええ、必要だと言われるのなら、何百頭でも出しますよ。
必要ですか?
それとも最初はどれだけの種類があるか確かめられますか?」

最初は返事もできなかった板長と女将ですが、私が普通の野兎や野狐、野狸や鴨をだして、板長と女将の動揺を抑えました。
その上で、板長に全ての獲物を確認してもらいましたが、板長が自信を持って料理できる素材が限られているようです。
高級で美味しいと言われる素材でも、何度も試作しないとお客さんに出せる料理にはならないと言われました。

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