「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第4話

「ええい!
まだ兵士の準備は整わんのか!」

「もう直ぐでございます。
屋敷の周りの民の数がもう少し減れば、屋敷の兵士だけでも突破できます。
準備が整う前に門を開けたら、民が屋敷に押し入ってきてしまいます」

「そのような事は、言われなくても分かっておるわ!
おのれクラリス!
下劣な真似をしおって!
聖女なら聖女らしく、祈りだけ捧げておればいいものを。
このままでは済まさんぞ。
必ず報復してくれる!」

貴族院議長、バルフォア侯爵ザシャトが身勝手な事を言っています。
下劣なのはお前でしょう。
まあいいです。
生きていられるのも残りわずかです。
私の放った魔獣が、そろそろバルフォア侯爵の屋敷にたどりつく頃です。

「魔獣だ!
魔獣が現れたぞ!
逃げろ、急いで逃げるんだ!」

バルフォア侯爵の屋敷を囲んでいた民が、急いで逃げていきます。
深夜近くなっているので、エレノアと見ていた時よりも凄く人数が減っています。
王城を囲んでいる民の数も減っていたので、タイミングは最高ですね。
ここで魔獣が現れたと噂が流れたら、民の怒りと恐怖は頂点に達します。
エレノアが熟睡するまで、眠いのを我慢して起きていた甲斐がありました。

封印の網の強度は、まだまだ丈夫でした。
今この大きさの魔獣、牙鼠がこの世界に出てこれる状態ではありませんでした。
それを私が手を加えて、一時的に網を広げたのです。
あまりに強大な魔獣がでてこないように、慎重に場所とタイミングを計って、牙鼠十頭だけをこの世界に放ったのです。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「魔獣だ!
魔獣がでたぞぉ!」

門番が慌てふためいています。
バルフォア侯爵家の陪臣徒士が、槍を振るって斃そうとしています。
ですが無理ですね。
あのようなへっぴり腰では、とても魔獣の堅い皮を貫く事はできません。
本当に武力で採用された、真の騎士や徒士以外では、最弱に近い牙鼠の皮すら突き破る事は不可能です。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!
悪かった!
俺が悪かった!
正す!
裁判をやり直すから許してくれ!
頼む、クラリス。
クラリス様!
ギャアギャア!
痛い!
俺の身体を食べさせるのは止めてくれ!
クラリスさまぁぁぁぁ!」

汚い男が牙鼠に喰い殺されるのを見ても、何も面白くないですね。
いい気味だとは思いますが、楽しいわけでも、うれしいわけでもありません。
牙鼠は、突き出たところ、柔らかいところから食べます。
耳や鼻、唇や指先から齧ります。
喉仏から喰い破ってくれれば、早めに窒息して死ねるでしょうが、腹を喰い破られ、生きたまま内臓を喰われるのはとても痛いでしょう。
まあ、これで王侯貴族も民も思い知った事でしょう。
もう眠いので眠りましょう。


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