「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第16話

「レオ?
本当にレオなの?」

「ギャリュウウウウウウウ!」

私が思わず口にしてしまった言葉に、レオが心外だと言い返します。
それはそうでしょう。
私の目の前でレオは脱皮したのです。
入れ替わるわけがないのです。
そんな事は分かっています。
分かっていますが、それでも、思わず口にしてしまったのです。
それほど信じられない光景が、目の前で起きたのです。

脱皮する生き物は、脱皮のたびに大きくなるのは私も知っています。
レオの脱皮もそうでした。
脱皮のたびに少しづつ大きくなりました。
最初は手のひらに乗るような大きさだったレオが、今では頭から尻尾まで入れれば、六十センチにもなっています。

ですが今回の脱皮は、少しづつ大きくなるのではありませんでした。
皮を脱ぐというのではなく、光り輝きて巨大化したのです。
自分の眼を疑い、思わず疑問を口にしてしまいました。
それほどの非常識な巨大化です。
胴回りが騎士の軍馬に匹敵します。
全長は十メートルくらいあるでしょうか。

「ごめんね。
とても疲れたでしょう。
今は休んで。
私が必ず護るから」

「ギャリュウウウウウウウ!」

レオが機嫌を直してくれました。
それだけではなく、巨大化した身体で甘えてきます。
ですがこれには困りました。
今迄のような身体ではないのです。
これほどの巨体で甘えられたら、私の身体が押しつぶされてしまいます。

「ギャリュウウウウウウウ!」

レオもその事に気がついたのでしょう。
今度は一転とても哀しそうに泣き出しました。
ですがもうどうしようもありません。
脱皮してしまったのです。
これほどの巨体になるなんて、レオも私も全くの想定外です。

そして考え付いたことに、思わず驚きの声を上げてしまいそうになりました。
ですがそれを必死で飲み込みました。
これほどの脱皮ですから、レオはそうとう消耗しているはずです。
私が不安を口にしたら、レオまで不安になってしまいます。
今は疑問も不安も口にする時ではありません。

それでも内心はとても心配です。
これほど巨大化したレオは、どれくらいの食事をとるのでしょうか?
今迄も脱皮の負担から立ち直った時には、猛烈な食欲に襲われていました。
この巨大な体で、以前と同じ食欲だとしたら、とてもではありませんが、手持ちの食糧では足らなくなります。

あの人達を助けなければもう少し余裕はあったのですが、今はとても足りません。
脱皮直後で体力を失っているレオです。
小さな身体から一気に巨大化したことで、感覚が狂っている可能性もあります。
今迄のように簡単に獲物を捕らえる事ができないかもしれません。
私が何とかしなければいけないのです!

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品