「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第6話

正直驚きました。
心臓が口から飛び出るかと思うほどドキドキしました。
背中を冷気が駆け上り、首に鳥肌が立ちました。
金縛りになって、ピクリとも動けない状態でした。
それくらい恐怖を感じていました。

「キュウウウウウゥゥゥ」

そんな私の気持ちなど一切関係なく、翅蜥蜴が私の脚に擦り寄ります。
ですが二声で鳴かなくなりました。
それどころか、私の脚にもたれかかって倒れたのです。
私の手の中におさまるくらいの小さな小さな翅蜥蜴です。
痩せ細っているのが一目瞭然で、死にかけているのは明らかです。

香水の効果がなかったことによる恐怖は吹き飛びました。
助けてあげたいという想いしかありません。
急いで綿布袋から食材を取り出して食べさせようとしました。
弱々しく反応して食べようとしたのですが、弱り過ぎて食べられないようです。
私は急いでリンゴを口に入れて噛み砕きました。

噛み砕いたリンゴを翅蜥蜴の口に持っていくと、舐めるようにして食べてくれましたので、食べ終わるまでに他の食材を噛み砕いておくことにしました。
干肉を口に入れ、柔らかくなるまで噛み砕きました。
栄養を奪わないように、つばを飲み込まずにただ噛み砕きました。
水分が多すぎますが、翅蜥蜴は渇いているのかもしれません。

私は意を決しました。
相手は野生の翅蜥蜴で、病を持っていてる可能性があります。
下手をすれば、唇を喰い千切られるかも知れないのです。
それでも躊躇っている場合ではないのです。
私は口移しで口の中の干肉を与えました。
最初は栄養の移った唾液を飲ますように。
コクコクと飲んでくれたのを感じて、柔らかくなった干肉を与えました。

喉を詰まらさないように、ゆっくりと時間をかけて、食べさせました。
翅蜥蜴が全部食べ終えてから、回復魔法を使いました。
慈善事業家と共に、貴族令嬢の社会貢献として、貧民救済のための炊き出しや無料治療に参加していてよかったと、心から思いました。
お陰で食べ物を摂取できないくらい弱った者を助ける方法を学べたのです。

「キュウウウウウゥゥゥ」

一度で再び鳴けるくらい回復してくれました。
私はもう一度リンゴと干肉を与えてみましたが、大きいままでは食べれないようなので、再びよく噛んで与えてみました。
今度は口移しでなくても、手のひらで与えても食べられるようになっていました。
私は心から安堵しました。
そしてある程度食べたと判断してから、再び回復魔法を唱えました。

「キュウウウウウゥゥゥ」

私の勝手な解釈かもしれませんが感謝の心を込めて鳴いているような気がします。
少なくとも元気になっているのが分かるくらい、鳴き声が大きくなっています。
もっと食べさせて元気にしてみせます!

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