「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第5話

「んぬ?
金が、金がない?!
泥棒!
泥棒だ!」

帳場の男が騒ぎ出しました。
さすが両替商の責任者です。
金庫箪笥の中の金が減っている事に、直ぐに気がつきました。
私は素早く後ろに下がりました。
下がって様子をうかがおうとしました。

ですが帳場と金庫箪笥の周りに人が集まりだします。
このまま様子をうかがっているよりは、素早く逃げた方がいいと考えました。
ですが表通りからは、多くの人が店の中をうかがっています。
姿が消えた状態で人をかき分けて出たら、あっという間にどうやって盗んだかバレてしまいます。

私は奥に向かいました。
最初に何があるか物色した時に、奥に裏庭と裏口があるのを確認しています。
裏口から逃げれば誰にも見つかりません。
帳場の騒動で、店の者は全員帳場周りに集まっています。
私は誰に見つかる事もなく、裏口を開けて逃げることができました。

両替商から離れ、バークレー王国内に向かう城門に急ぎました。
盗難騒ぎは両替商の近くだけです。
少し離れれば普通の喧騒があるだけです。
ですが、城門近くは別でした。
私を逃がさないためでしょう。
物々しい検査をしています。

普通なら厳重なはずの入国時の検査よりも、国境軍城から国内に入る検査の方が厳しく荒々しいです。
それが異常な検査なのは、文句を言っている商人の態度でも明らかです。
ですが関所の兵士は一向に検査内容を改めません。
改めないばかりか、文句を言った商人に殴る蹴るの暴行を加えています。
そればかりか、商品や金品を奪っています。
まさに異常事態です。

関所の将兵も追い込まれているのでしょう。
さっき聞いた話では、私を誘拐を依頼した黒幕は、相当な権力者です。
達成できなければ殺されると言っていました。
命懸けの状態なのでしょう。
商品や金品を奪うのも、使ってしまった前金を返すためでしょう。
私を探し出し捕まえられなかった時の事も考えているのです。

私は時間をかけて検査の仕方を見続けました。
幸いにも、特別な魔法や魔道具を使っているわけではありません。
人が調べるだけです。
かなり厳重ではありますが、見えない状態の私なら、すり抜けられます。
商人の馬車を多くの将兵が漁っている時に、徒歩の民が続いている場合なら、将兵と接触する心配なしにすり抜けられます。

私は意を決して城門の検査を突破しました。
結構勇気が必要でしたが、やり切りました。
城門から出て、安堵したい気持ちを叱咤激励して、検査を抜けた他の人にぶつからないように、急いで国境軍城から離れました。
ようやく安心できると所までは離れて、ひと息ついた時。

「キュウウウウウゥゥゥ」

とても弱った翅蜥蜴が足にすり寄ってきたのです。

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