「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第9話

城に入り、当主の間に入って、ようやく安堵できました。
怒涛のような日々でした。
全く気の休まる事にない日々でした。
いつ寝首を掻かれるか分からない日々でした。
最も身近で信頼できるはずの侍女が裏切っていたのです。
どれほど苦しかったことか!

ですがまだ眠る訳にはいきません。
父を殺したとはいえ、何か仕掛けがあるかもしれないのです。
父もモントローズ公爵家の当主だったのです。
万が一自分が殺された時に、城まで乗っ取られないように、当主の間に最後の罠を仕掛けている可能性があるのです。

当主の間や自分が使う部屋は、見落としがないように、徹底的に調べました。
見つけた魔道具や仕掛けは、父のための仕様から、私用の仕様に変えました。
私は知る限りの仕掛けを調整し直しました。
父の仕様は甘すぎます。
以前の私なら同じ仕様でも安心したでしょう。
ですが侍女にまで裏切られた私は、当主の間と私室には、私以外誰一人入れない仕様にしたのです。

そこまでやって、ようやく私は眠ることができました。
当主の間のソファーに崩れ落ちました。
人よりも魔道具を信じて、フセインやハミルトン公爵家の手先が、モントローズ公爵領に入り込んだ時には、直ぐに知らせるように調整していました。

私は爆睡しました。
今までの睡眠不足を取り返し、心身の健康を取り戻すためには、どうしても必要な時間だったのでしょう。
ですが非常に危険な時間でもありました。
だからでしょうか、とても深い眠りだったようです。
崩れ落ちて直ぐに飛び起きたような感覚でした。

ですが、眠る前とは体調が全く違っていました。
水を含んで重くなったようだった身体が、羽毛のように軽やかなのです。
芯が痛み直ぐに反応してくれなかった頭が、明敏になっています。
私は長時間熟睡したのだと理解しました。
同時に何時間眠ってしまったのか不安にもなりました。
当主の間にある時計を確認した、十時間過ぎているのが分かりました。

自分でも反応に困る時間でした。
長く寝過ぎたと考える事もできます。
あのような経験の直後では、短すぎるとも考えられます。
ですが危険な時間であったことは間違いありません。

「誰かいますか?」

「はい!
家老ナレク、控えさせていただいております」

譜代の家老ですね。
私がいつ起きても対応できるように、交代で控えの間に待機していたのでしょう。

「今起きた所です。
身嗜みに少し時間がかかります。
その時間が惜しい重要案件があれば言葉だけで報告してください」

私は今できる事から始める事にしました。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品