「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第7話

「申し訳ありません、父上。
王太子を叩きのめしてしまいました」

「しかたあるまい。
直ぐに国を出る支度をする。
エベレットには私から事情を伝えておく。
エリアナは時間稼ぎをしてくれ。
できれば三日、短くても丸一日は必要だ」

「分かりました。
責任をもって三日は時間稼ぎさせていただきます。
本当に申し訳ありませんでした、父上」

私は王太子を一撃で気絶させました。
王太子の警護に当たっていた近衛騎士は、全員叩きのめしました。
四肢すべての骨を叩き折り、身動きできない状態にして、借家に寝かしています。
もちろん縄で厳重に拘束しています。
父上直伝の縛り方ですから、魔獣でも解くことができない縛り方です。

そうしておいて、詳しい事情を父上に報告しました。
気絶させた王太子は馬に乗せて運んできました。
王太子と近衛騎士が乗ってきた軍馬が沢山いますから、馬に不自由はしません。
王太子の顔など知らない父上ですが、身なりで事情を察せられたのでしょう。
直ぐに話を聞いてくださいました。

父上と兄上には本当に申し訳ないことですが、私にも譲れないものがあります。
家族に甘え迷惑をかけてでも、譲れないものがあるのです。
事情を聞いてくださった父上は、この王太子相手では仕方がないと言ってくださいました。

自分が振られたくらいで、家族にまで罰を与えようとする王太子。
そんな人間に仕え忠誠を尽くすのは、武人の恥だとまで言ってくださいました。
うれしい気持ちと申し訳ない身持ちで一杯になりました。
特に兄上には申し訳ない事をしてしまいました。

父上に騎士家当主の座を譲られ、もうすぐ決婚を控えておられたのです。
それが全て無に帰すのです。
騎士の地位を捨てて他国に逃げるのです。
この王太子を殺しても開放しても、国に残っていれば、兄上は厳罰に処せられてしまいます。

母上は家の荷物整理を始められました。
逃亡の旅になりますから、家財道具を運ぶ事はできません。
少なくとも馬に乗せて運べるものしか持っていけません。
現金と宝石、先祖代々の武具刀剣に家宝くらいです。
家屋敷と家財道具は残していくことになります。

父上は師範代と高弟を急ぎ呼び集められ、次期道場主を指名され、家屋敷と家財道具を譲ると言われました。
ですが全員が拒否したのです。
全員父上について国を捨てると言ってくれたのです。
私は涙が出るくらいうれしくなりました。
父と弟子たちの絆が羨ましくもありました。
そんな弟子たちに、父上はある指示を出されたのです。


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