「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第2話

「酷い!」

私の治療に長年付き添い、多くのケガや病気に触れてきたはずのイザベラが、無意識に言葉にするくらい酷い傷です。
偶然一度や二度叩いたものではありません。
意識して、顔全体を残すところなく潰していったのでしょう。
あまりの所業に、沸騰した怒りがおさまりません。

ですが、いまは、冷静に治療に専念しなければいけません。
神々に祈りを捧げ、奇跡を起こしていただかねばなりません。
誰かに怒りを感じ、憎しみを持っている状態では、神々から授けられる神力が限られてしまうからです。

(天にまします神々よ!
どうかこの不幸な子を助けたまえ!
我にこの子を癒す力を与えたまえ!)

腐った教会の者たちに聞かれるわけにはいきませんので、祈りは言葉にせず心の中で唱えます。
いえ、祈願すると表現すべきでしょう。
教会の者たちは、自分たちに都合がいいように、神は一柱だけしかいないと大嘘を吐いていますが、実際には多くの神々が天におわすのです。

まあ、中には邪神や悪神と表現する方がいい方々もおられます。
他の神々を下に見て、自分だけが神で、他の神々を神ではないと放言する方もおられますが、父なる神と母なる神がいなくて、どうやって生まれてきたというのでしょうか?

人にもいますが、自分だけが人間で、他もモノは人間に似ただけのサルだと暴言を吐く者がいます。
そんな奴がまともな性格なはずがないのです。
ですが、人を奴隷にしてこき使ったり、命まで奪うには、相手が人間でない方が都合がいいのです。
教会には、そんな腐った連中が聖職者ズラしてのさばっているのです。
だから神々という表現を口にするわけにはいかないのです。

「ああ、奇跡が始まりました。
治っていきます!
無残な傷がみるみる治っていきます!」

イザベラが興奮しています。
この子の不幸に心痛めていたのでしょう。
それに、治療する相手がどのような神にも嫌われている場合や、どうしようもない悪人の場合は、奇跡の力が授からない場合もあります。
まあ、利用価値のありそうな悪人の場合は、邪神や悪神が力を貸してくれる場合もありますので、絶対ではないのですが。

「キャアァァァアアアア!」

イザベラが悲鳴を上げて眼を背けています。
私も正直驚きました。
これが原因だったのですね。
このせいで、この子は完膚なきまで顔を潰されて捨てられたのですね。
でも、だったら、なぜ教会の前に捨てられたのでしょうか?
この子の顔を内密にして処分したかったのなら、確実に殺して、焼いて灰にすべきでした。

教会の前に捨ててしまったら、私が助ける可能性があることは分かるはずです。
この子の背景には、二つの勢力があるという事でしょうか?
このような顔の子が家に生まれたことを恥じ、殺して闇に葬りたい勢力と、何とか生かしてあげたいという勢力の二つです。
そして殺して闇に葬りたい勢力の方が圧倒的に力が強いので、処分を命じられた者が何とか救い出したという事でしょうか?

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