「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第9話リッカルド視点

「頼めるか?」

「任せな。
俺とお前の中だ、遠慮はいらん」

「すまんな、こんな事はお前にしか頼めんのだ」

背中を預けて戦った斥候のビリオンに暗殺など頼みたくなかった。
頼みたくはなかったが、ビリオン以外に頼める人間がいなかった。
失敗して捕まった時の事を考えれば、アマル公爵家の人間も流れの暗殺者も使う事ができない。
まして暗殺者組合に弱みを握られる訳にはいかない。

心配だった。
失敗するのはかまわない。
死なないでくれ!
相手は一国の王太子だ。
多くの令嬢や夫人の名誉を傷つけ汚名を着せた来たのだから、山ほど恨みを買っていて、多くの刺客が向けられていたはずだ。
それを撃退し続けてきたのだから、厳重な警備がなされているはずだ。

直接暗殺できなくてもいい。
髪でも爪でもいいから、呪殺に使える身体の一部を手に入れてくれ。
長年かけて蓄えてきた魔血晶を全て使えば、王家の厳重な結界を破って王太子を呪殺ができるはずだ。

ジリジリとした一カ月、不安を振り払うように働いた。
王太子が御嬢様に放った刺客を撃退すべく、アマル公爵家の家臣と冒険者を総動員して戦ったが、彼らは獅子奮迅の活躍をしてくれた。
家臣も冒険者も死傷する者が多かったが、お陰で領内に侵入した刺客のほとんどを討ち取る事ができた。

問題は我々が存在を掴めないほど潜入が巧妙な刺客だ。
私の知る最も巧妙な斥候はビリオンだから、ビリオンが安全だと言ってくれれば安心できるが、他の者の言葉では心底安心できない。
まだ刺客が潜んでいて、御嬢様を狙っているのではないかと不安になる。

「大変でございます!
一大事でございます!」

まさか?!
御嬢様に何かあったのか?!
やはり我々が把握できていない刺客が残っていたのか?

「何事だ?!」

「王太子殿下が弑逆されたそうでございます!」

やってくれたのか?
ビリオンが王太子を殺してくれたのか?
ありがとう、ビリオン!
ビリオンは逃げ切れたのか?

「なんたることだ!
王太子殿下を襲った者は捕まったのか?!」

「分かりません。
王太子殿下を襲った者の話は全く伝わっておりません」

「至急人をやって調べよ。
それと、本当に王太子殿下が亡くなられたのかの確認もとれ。
本当に亡くなっておられたら、弔問の使者を送らねばならないが、刺客と黒幕をあぶり出すために偽装しておられるのなら、弔問の使者は不敬になってしまうからな」

「承りました。
本領と連絡をとりまして、遺漏なく調べます」

「任せたぞ」

早く逃げてこいビリオン。
御礼を用意して待っているからな。

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