「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第5話

「さて、どうすべきだと思う?」

「どうもこうもないだろう。
開拓する以外の方法などないぞ」

冒険者チームのリーダー、ステファノが遠慮なくぞんざいな言葉で返事する。
言葉遣いを気にしていたら、目的にあった冒険者をスカウトできません。
体裁より実利が大切です。
三度も火炙りにされたら学習します。

六人組冒険者チーム「士族になる」をスカウトしたのには理由があります。
彼らがその望みを明確にしていたからです。
チーム名からも明らかですが、彼らは世襲の地位を望んでいるのです。
それも到底実現不可能な『貴族』を目標にするのではなく、可能性のある『士族』と公表しています。

王家の目に留まるほどの活躍をして『貴族』の位を得るのは、全く不可能というわけではありません。
十年に一人くらいは現れます。
ですが普通は不可能です。
それまでに死ぬか戦えなくなるのが普通なのです。

ですが、これが『士族』なら格段に可能性が高くなります。
何故なら相手が王家に限らないからです。
貴族に仕える『陪臣士族』という方法があります。
王家直属の士族よりも下に見られることが多いですが、世襲できる立派な地位で、冒険者を続けるよりは安全で安定しています。
特に家を継げなかった士族の部屋住みは、眼の色を変えて失った地位を取り戻そうとします。

もっとも「士族になる」の六人は士族の出身ではありません。
純粋に士族に憧れて目指しています。
だからこそ最低ラインが低くて助かるのです。
士族にも大きく分けて二種類あります。
騎乗資格のある『騎士』と騎乗資格のない『徒士』です。

当然『騎士』の方が上位なのですが、維持費も莫大になります。
騎士が戦いに使う軍馬を調教するには、莫大な費用と時間がかかります。
自分と軍馬に装備する板金鎧や鎖帷子、剣や槍を購入するのにも莫大な費用がかかります。
軍馬も装備も予備が必要で、最低二組の装備をそろえる必要があります。
しかも次代を担う後継者も育て、後継者の装備も整えないといけません。

一方『徒士』はそれほどの装備は必要ありません。
まず騎乗資格がないので軍馬を二頭も維持する必要がありません。
板金鎧も必須ではありません。
小札鎧とか鱗鎧、薄板鎧と呼ばれるモノでも、硬皮鎧と鎖帷子の組み合わせでも、最悪硬皮鎧だけでも許されます。

「士族になる」の六人は、『徒士』の地位で臣従を誓ってくれました。
しかも自前で原野を切り開いて領地を開拓するという、最低の条件で臣従してくれました。
だからこそ「開拓するしか方法がない」と吐き捨てることになるのですが、六人が三組の夫婦になるという状況では、究極の選択をするしかなかったのでしょう。
安全な状態で子を産みたいというのは、女の知恵であり本能ですから。
まあ私も餌は与えています。
全部開拓できれば『騎士』の家になれるくらいの原野を与えました。

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