「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第7話

私は十日間呪殺を試みました。
でも、恨みを込めて呪文を唱えたわけではありません。
確かに王太子や側近達に対する怒りはあります。
ですがそれ以上に、この国を憂う気持ちの方が大きいのです。
王太子や王族にこの国を任してしまったら、民が塗炭の苦しみにあえぐことになるとかんじ、神々による天罰を願いながら、呪文を唱えていました。

身を清め酒食を口にせず、眠ることも忘れてひたすら祈りました。
不思議と空腹も眠気も感じませんでした。
集中して呪文を唱え続けました。
いえ、呪文を唱えるというよりは、神々に祈っていたという方が正確です。
二日三日と不眠不休で祈り続けているうちに、身近に神を感じることができるようになりました。

あまりの浮遊感に、気づかないうちに眠ってしまっているのかとも思いましたが、そうではありませんでした。
確かに神々しい気配を感じます。
とても人間が放つ気配とは思えません。
このまま祈り続ければ、神の世界に招かれるのではないかと、勘違いしそうになりました。

ですがこんな事はありません。
民のために祈ってはいますが、その大本は人を呪い殺そうとしているのです。
神々が御側にに呼んでくださるはずがありません。
私が呪殺に至った原因と願いに同情してくださっただけだと思います。

五日が過ぎた頃だと思います。
不意にイライジャの気配を感じました!
神々の気配だと思っていましたが、その中に親しんだイライジャを感じたのです。
正直とても安心しました。
呪殺に神々を感じるのは不安でしたから。
神が人間の呪殺に手を貸すとは思いたくなかったのです。

ですがイライジャの膨大な魔力を神の力だと勘違いしていたのなら安心です。
元々イライジャが教えてくれた魔法であり呪殺です。
イライジャが寄り添って助けてくれるのは普通だと思えます。
実質婚約者だったイライジャが私を助けてくれるのは普通だと思えてしまいます。

一度は王太子との婚約話を受けた不実な裏切り者と、罵る人がいるかもしれませんが、私の心はずっとイライジャと共にありました。
イライジャが私を想ってくれている気配を感じ続けていました。
誰であろうと、私達二人を引き離すことなどできないのです。

まだ肌を合わせたことのない二人ですが、祈りのなかで一つに溶け合り、夫婦となりました。
もはや誰であろうと、イライジャと私を引き離す事はできません。
父上や母上が何を言っても駄目です。
前回のような事は絶対にさせません。
私の夫はイライジャで、イライジャの妻は私です。
一つになった私達は、王太子と王族への呪殺を完成させました。

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