「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第2話

「よく無事だったね!
襲われなかったのかい?」

「心配してくれてありがとう、イライジャ。
イライジャが強力な御守を貸してくれていると言ったら、王太子が命令しても襲い掛かってこなかったわ」

「それはよかったよ。
それで婚約の件はどうなったの?」

「婚約は破談になったわ。
私との間では破談と言う話だったけど、発表がどうなるのかは分からないわ」

「そうなんだね。
馬鹿な王太子がティナム伯爵家を取り潰そうとするかもしれないね」

「う~ん、どうなるかな?
侍従の話では、もう王太子に味方する貴族はいないようなのよ」

「そうだね、諸侯軍の協力なしにティナム伯爵家を攻め滅ぼすのは無理だね。
それに安心してよ。
ヴォークス伯爵家は何があってもアメリアを護るからね」

「ありがとう、イライジャ」

私の幼馴染イライジャ。
主なる神という意味からつけられた名前。
ヴォークス伯爵家は敬虔な神の信徒なのに、長年子供に恵まれませんでした。
毎日神に子供を願い続けて三十年、初老といえる歳になってようやく授かったのがイライジャなのです。

だからこそ主なる神という名を付けられるくらい、愛され期待されているのです。
赤ちゃんの頃のイライジャは、笑顔だけでヴォークス伯爵家に幸せを持たらしたと、ヴォークス伯爵からも奥方からもお聞きしました。
子供のころに天使のように可愛いかったのは、一緒に遊んでいた私もよく知っています。

でもイライジャは可愛いだけの存在ではありません。
神々に愛されているのでしょう。
天才的な頭脳で、次々と魔法式を覚えて行きました。
膨大な魔力で、全ての魔法を使いこなしました。
魔法式を改良して、新たな魔法を生み出しました。
何の欠点もないようなイライジャですが、貴族として致命的な欠点があります。
優し過ぎるのです!
あまりにも優しすぎて、横暴な子供にいいように虐められていました。

一方私は何の才能もない子供でした。
容姿も十人並以下で、不器量者と陰口を叩かれていました。
ですが私にも少しはいい所があるのです。
真面目な父上が、努力できる人間になれと願いを込めてつけてくださったアメリアという名にふさわしく、鈍才ながら諦めることなく努力できることです。
そして、少々気が強いところです。

そんなイライジャと私が幼馴染というのは、神々の配剤だと思うのです。
優し過ぎるイライジャが虐められていると、私が苛めっ子を追い払いました。
字も絵も楽器もマナーも覚えられない私を、イライジャは見捨てることなく時間をかけて教え導いてくれました。
そんな私達の事を、父上も母上もヴォークス伯爵夫妻も、結婚させようと考えてくださるようになっていたのです。
それを、あの王太子が邪魔したのです!



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