「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第9話

私の守護神には狩りが得意な方がおられます。
ツクヨミ神は戦神であり剣神でもあるのです。
戦いの中でも剣が得意なのですが、弓や投擲ができないわけではありません。
獣を狩るくらいなら、聖女に選ばれた私は、専業の猟師以上の力量があるのです。
手製の弓矢を製作する時間がもったいないので、革と蔦で作った投石器を使って、石を投擲して獣を狩ります。

「やったぁ!
一発だぁ!」

子供達がよろこんでいます。
ヘラジカの血抜きしようと、大人達が急いでかけていきます。
手にバケツを持っています。
血の一滴も無駄にしないのが、動物を殺して食べる者の責任です。
昨日狩った豚の腸皮に血を詰めて、ブラッドソーセージを作るのです。
でも、美味しくするには、独特に風味をやわらげる薬草が必要です。
まあ、あの風味がたまらなく好きだという人もいるのですが。

山羊がいます。
人間が狩りをしているのいうのに、なんと間抜けな山羊なのでしょうか。
肩高が百センチくらいで、体重は百キロくらいでしょうか。
山羊の中ではとても大きいと思います。
捕獲するか、それとも狩って食べるか、どちらがいいでしょうか?

一瞬悩みましたが、獲物は雄です。
乳を搾る事はできません。
これから冬になるので、餌になる牧草を確保するのも難しくなります。
雌なら無理をしてでも飼う価値があるのでしょうが、雄では微妙です。
それに、私は宿屋兼居酒屋の養女です。
山羊は飼うよりも狩って料理にすべきでしょう。

一瞬でそう判断した私は、素早く投石器で石をとばして山羊をしとめました。
千キロのヘラジカでさえ一撃で狩った私です。
百キロ程度の、間抜けな山羊を狩るくらいは、とても簡単な事です。
私が素早く投石器を使ったことに気がついた人達が、私の方を見ます。

「今山羊を狩りました。
直ぐに確保してください」

「おおおおお!」
「はい、直ぐに解体させていただきます」

さて、血の活用方法ですが、どうするべきでしょうか?
ヘラジカと山羊の腸を使ってブラッドソーセージにする方法もありますが、同じ料理ばかりでは飽きてしまいますね。
ここはせっかく山羊が狩れたのです。
山羊の胃に血と脂肪を詰めて焼いてあげたら、村の人達もよろこぶでしょう。
どうせなら色々組み合わせを変えてもいいですね。

ヘラジカと山羊の血なので、豚の血とは違うけれど、舌と脂肪と血を腸詰したブルートヴルスト。
血と大麦とソバを腸詰めたカシャンカ。
血とくず挽肉と大麦を腸詰したムスタマッカラ。
それと、日持ちさせるのも大切ですね。
血と玉ねぎのみじん切りと米を加えて腸詰めにして、一度茹でてから干して乾燥させれば、多少は日持ちするでしょう。

「私は今からソーセージに加える薬草と種実をあつめてきます。
後はお願いしますね」

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く