「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第6話

マリーは自由戦士ゴードンの言葉を無視して、博打場にいた客全員を帰らせた。
そして急いで犯罪所ギルドの本部、今では大商家の本部に向かった。

「貴男!
ケヴィンが聖堂騎士団に連れて行かれました」

「大丈夫だよ。
すでに調べさせているよ。
どうやら聖堂騎士団本部に幽閉されるようだ。
これからのポセイドン神殿は聖堂騎士団が舵取りをする。
ケヴィンを殺さないなら、神殿には弱みがある。
これで神殿と争う事はないだろう」

「そうですか。
安心しました。
ようやく軌道に乗ってきたランゼ商会です。
孤児達を飢えから救い、街娼達を守るためにも、神殿と争うわけにはいきません」

「ああ、ようやくだ。
幼い頃にマリーと誓った弱い者達を救う事。
背教徒のせいで潰されてはたまらんからな」

「はい、貴男」

マリーとシャイランはそっと手を繋いだ。
共に孤児として泥水をすすって生きてきた幼馴染だ。
マリーがヘルメス神の聖女に選ばれてからは、その加護の力を使って力をつけてきたが、全ては自分達と同じ不幸な者達を救う事だった。

最初はどうしても犯罪者ギルドを設立するしかなかった。
普通に商売をしていては、この都市にいる全ての孤児と病になった街娼に、食糧を与える事ができなかった。
博打場を作り、マリーの力と魅力で大金を得て、彼らを喰わせていた。

だがそれが最終目標ではなかった。
二人の目標は、孤児や街娼を正業に就けることだった。
職人の技を習得させたり、商売や会計ができるようになってもいい。
だが職人になっても、作った物が売れなければ生きていけない。
だから二人は多くの商家を潰して乗っ取った。

だが働いていた者を首にはしなかった。
悪事を働く者は別だが、まじめに働く者はそのまま使い、どんどん商家を大きくしていった。
今ではこの都市どころか国一番の大商家になっていた。
もうこの都市には孤児や望まぬ街娼はいない。
今いる街娼は望んでなった者達だけだ。

だがまだ二人の理想が完成したわけではない。
二人の理想は、この世界にいる全ての孤児を救う事だった。
そのためには、まだまだ資金が必要だった。
愚かな博打狂は落ちぶれることになるが、落ちるとこまで落ちたら、働く気さえあれば、ランゼ商店で日雇いとして、衣食住の保証はしていたのだ。

「それと、昨晩めんどくさい自称自由戦士が来ました。
本物か調べておいてください」

「心配いらないよ、ゴードンは本物だよ。
彼は僕がつけたマリーの護衛だよ。
マリーの事が心配で、信じられる護衛を探していたんだけれど、ようやく彼が見つかったのだよ。
彼ならマリーに色目を使う心配もないからね」

「まあ!
私が貴男を裏切る事なんてありませんわ!」

「知っているよ。
知っているけれど、それでもマリーほどの美人を妻にしていると、不安で仕方がないのさ」




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