「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第1話プロローグ

「今代の守護神の聖女はアランデル公爵家令嬢ビクトリアと神託が下った。
これにより次期王妃はビクトリアとなる。
今日まで王太子殿下の婚約者であったアメリ嬢は、聖女候補の役目を解かれることになるので、王太子殿下との婚約を解消され、元の身分に戻ることになる。
これはアメリ嬢だけにあてはめられる事ではなく、全ての聖女候補も同様である。
元の身分に戻り、それぞれの実家に帰ってもらう」

神殿内は騒然としていた。
前代未聞の出来事だった。
長年修業してきた聖女候補ではなく、全く修行をしてこなかった、宰相の娘で公爵家令嬢でもあるビクトリアが聖女に選ばれたのだ。
列席し検分していた国王が苦々しい顔つきをしている。
政教分離が建前のこの国では、国王であろうと神殿の決定に逆らえない。

本来なら怒りに震え、絶望していているはずのアメリ嬢だが、全く表情を変えていないどころか、内心で喜びに打ち震えていた。
元々自由闊達なアメリ嬢、いやアメリは、堅苦しい王妃になどなりたくなかった。
それどころか、聖女候補に選ばれる事すら嫌だったのだ。

だが、乳飲み子の頃に神殿前に捨てられていたアメリには、神殿に逆らう事はできなかったし、育ててくれた神殿に恩義も感じていた。
神殿の大切なお役目だと知れば、疎かにはできなかった。
歴史や地理、魔術や武術に関しても、普通なら学ぶのに莫大な費用が必要な事を、意地悪な貴族家出身の聖女候補から、嫌味と共に教えられていた。

普通なら身分の問題で選ばれないはずのアメリが聖女候補に選ばれたのは、今では先代となった聖女、イリスに天啓が下されたからだった。
だがそれが、イリスの運命にも大きな影響を与えてしまっていた。
守護神との契約を守り、国が亡ぶ事のないように祈りを捧げる聖女は、王家ではなく神殿が育て守ることになっていた。

そして上手く王太子と年回りがあう場合は、結婚させて将来の王妃として遇するのが、マラハイド王国の知恵だった。
だがその悪影響も徐々にでてきていた。
聖女候補に選ばれるのが、常に貴族令嬢となっていった。
守護神に好まれるという、元々の素養が大切なのに、広く探すのではなく、身分の高い順に最低限の素養を現わした貴族令嬢から選ばれるようになっていた。

過去の多くの亡国の歴史を調べ、神との契約を失い国が亡びる事のないように、政教分離を国是とした建国王の願いも虚しく、教会が腐敗してしまい、賄賂をとって聖女候補を選ぶようになっていた。

今回はその弊害が極端で、全く聖女の素養がない腐れ女ビクトリア嬢を、王太子とビクトリア嬢と宰相の陰謀によって、聖女に選んでしまっていた。
だが、神殿首脳部も守護神との契約を疎かにするほど馬鹿ではなく、普通なら還俗できるはずのイリスを神殿に幽閉し、ビクトリア嬢が王太子と正式に結婚するまで、次代の聖女が選ばれるまで、誤魔化そうとしていた。

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