第46話

「お嬢様！
ルシアお嬢様！
おおおお、感謝します、神よ！
どうか屋敷にお戻りください！
閣下も手を尽くして探しておられたのです！」

運が悪すぎます。
最悪です。
普通はギュンターの店に貴族士族が来る事はありません。
ところが今日は、高級店が全て一杯だったというのです。
貴族の会合で、陪臣士族が使える店がなかったというのです。

サンディランズ公爵家の王都家老を務める準男爵のジョセフは、寄騎貴族家の王都家老と今後の方針を決めるべく、下交渉をしようとしたそうです。
それでもよほどの偶然がなければ出会うことなどありません。
時間差があって、私達は先に個室に入っていたのです。
同じ店を使うにしても、出会う確率は低かったのです。

ですがギュンターの店も一杯でした。
それでなくてもギュンターの店の個室は少ないのです。
高級店がどこも貴族で満席なので、士族が少ない個室を使っていたのです。
ジョセフ達は、身分差で強引に平民の私達を追い出そうとしたのです。
そこにたまたま私がいたのです。

傍若無人な士族達の横暴に、ネイがとても怯えています。
私の正体がバレて、この国を出なければいけなくならないように、ウィリアム達も我慢して黙っていてくれました。
抵抗することなく、追い出される覚悟でした。
私も同じ気持ちでした。
命を賭けることなく多くの報酬が得られて、穏やかに幸せに暮らせる今の生活を、失いたくなかったのです。

ですが、その我慢は無駄になりました。
私の事をよく知っている、実家の王都家老と出会ってしまったのです。
もう我慢しても意味がありません。
この国を逃げ出す以外道がなくなりました。
その怒りは、私の我慢の限界を超えそうでした。
それでも我慢していたのですが、ネイを怖がらせたことで切れてしまいました！

「この腐れ外道が！
身分を振りかざして横車を押しやがって！
誰もが身分差に小さくなっていると思うなよ！」

私は鍛え上げた力を解放しました。
実家にいる時から鍛えてきた身体が命を賭けた実戦で磨きがかかっているのです。
年老いてろくに鍛錬もしていない王都家老達など、簡単に叩きのめせます。
私の怒りは尋常一様ではなく、一切の手加減をしませんでした。
殺さない事だけは気をつけましたが、一番激痛を与える方法で叩きのめしました。

五人の王都家老達の急所を蹴り上げ、急所を粉砕しました。
その激痛は、女の私には理解不能ですが、ウィリアム達の表情と顔色を見れば、効果的だったのが分かります。
いえ、目の前で悶絶して倒れている王都家老達を見れば一目瞭然です。

「ネイ、逃げようと思うけど、いいかな？」

「うん、いいよ。
ママと一緒にいられるのなら、どこだっていいよ」