「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第40話

「片付いたようだね。
確認するかい?」

「はい。
遺品を集めて、身元を確かめて、墓を建ててやります。
まだ直接襲われたわけではありませんから。
魔境で偶然出会った冒険者の遺体として、弔います」

「そうか。
それが一番無難だろう。
エルフィンストン王国から難癖をつけられないようにするには、それが一番だな」

私達は魔力で魔砂蟲の襲撃を防ぎながら、遺品を探し回りました。
その場には、喰われる時にズタボロになった衣服や装備品が散乱しています。
まあ、回収する前に魔獣を斃さなければいけません。
結構な数の魔獣が集まっていました。
なんといっても六十人近い人間が集まっていたのです。
この魔境で、これほどの獲物が一か所に集まる事などないのです。

いえ、人間だけではありません。
普段は魔蠍や魔毒蛇などの餌になる魔砂蟲が、無数に集まっているのです。
誰かの縄張りだと恐れている場合ではないのです。
餌の少ないここでは、命を賭けてでも獲物に集まるときなのです。
人間を喰って体積が増えた魔砂蟲。
遅れて食べ損ねた魔砂蟲。

その両方を急ぎ集まった多種多様な魔獣が襲います。
皆が魔砂蟲に襲いかかっていますが、中には弱い魔獣を狙う魔獣もいます。
魔鼠を狙って、魔毒蛇がとびかかります。
その魔毒蛇を、魔禿鷹が襲います。
魔蠍同士が鋏で傷つけあっています。

私達は弱っている魔獣から一撃で斃していきました。
これはチャンスでもあるのです。
広大な荒地に点在する魔獣が、珍しく一ケ所に集まっています。
一網打尽にする絶好の機会なのです。
遺品集めを後回しにして、魔獣を狩りました。
そしてそれを冒険者ギルドに持ち込みました。

「そうですか。
認識票はなかったのですね?
では冒険者ではないのでしょう。
少なくともここに登録した者ではありませんね。
しかしこのような危険な魔境に黙って入るなんて、命知らずにも程があります。
私達も各地の冒険者ギルドを通して問い合わせしてみます。
遺族が見つからなければ、手数料を引いて遺品の全額をお渡しいたします。
遺族が見つかれば、手数料を引いて、遺品の半額をお渡しします」

「分かりました。
一応供養塔を建てましたので、遺族が見つかった場合はその事も伝えてください」

「親切ですね。
分かりました。
そのようにお伝えしましょう」

ウィリアムが今回の件を冒険者ギルドに報告してくれました。
魔境で偶然遺体を発見したことにしています。
先に私が調べた範囲では、三人はもちろん、聖女マルティナも死んでいます。
これでようやく安心して眠れます。
わざわざこちらから身元を教えてやる必要はないので、遺品だけを届けました。
本気で探す気なら見つかるでしょう。
でも職員が半額を着服したら、永遠に報告されないでしょう。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品