「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第26話

「苦しゅうない。
面をあげろ」

偉そうなことです。
以前ならともかく、家を飛びだしてからは、このような仰々しいことが苦手になりました。

「「「「「はい」」」」」

仲間たちと一斉に返事をして、顔をあげます。
一応私が最上位の身分なので、私が返事しなければいけないのです。

「な!
リーアス」

私の言葉も聞かずに、サンテレグルラルズ王国の国王、ウィリアム陛下が絶句しています。
視線の先には、私の腕にしがみつくネイの姿があります。
それは尋常一様なことではありません。
最大の警戒をしなければいけない、非常事態です。
今直ぐ逃げだしましょうか?

「陛下!
他人の空似でございます。
調べによれば、この者は捨て子で、ルシア嬢が拾い助けたとの事。
リーアス殿下と関係があるわけがありません」

「……分かった。
だが気分が悪くなった。
この謁見は中止だ」

そう言いおくと、ウィリアム王はさっさと部屋を出て行ってしまいました。
王とはいえ、礼儀知らずにもほどがあります。
ですが、相手は国王です。
文句など言えません。
私たちは追い払われるように部屋に戻らされました。

いつもは寝ている時間に謁見させられたネイは、私の膝の上で寝息を立てていますが、ベットで寝かしてあげるわけにはいきません。
いつ何が起こるか分からない状況ですから、ネイを護るために、側から離れるわけにはいかないのです。
同時にどうしてもアマゾーンたちに聞いておかなければいけない事があります。

「リーアス殿下てだれ?」

アマゾーンのメンバーは互いに顔を見合わせて、だれが話すか確認しています。

「私が話させてもらいます」

魔法使いのカルラが話してくれるようです。
順当な人選でしょう。
不足があれば他のメンバーも横から話してくれるはずです。

「リーアス殿下は、この国の王太子だった方です。
知勇兼備で、人望もあったと聞いています。
もっとも、庶民の私たちに届く情報など、真偽のほどは分かりません」

「王の反応を見ると、ネイがそのリーアス殿下に似てるのよね?
だったと過去形で話すというのは、亡くなられたという事だよね?」

「そうですね。
間違いなく似ているのでしょう。
それも、側近が慌てて否定するくらい瓜二つなのでしょう。
六年前に暗殺されたリーアス殿下に」

「リーアス殿下は暗殺されたというのですか?!
しかも六年前に?
ネイの年齢は本人にもわからないですが、六歳くらいでしょう。
偶然だというには色々な事が重なり過ぎています」

「そう、ですね。
ですが、暗殺されたというのは、庶民の間に流れた噂です。
公式には病死ということになっています。
ですが、その前後に第三王子と第四王子、それに第六王子まで病死されています。
生き残っているのは、現王太子と同腹の第五王子だけです」

「これは、逃げ出す準備をした方がいいですね」

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