「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第19話

初手を敵に取られたのは痛かったです。
王都警備隊の半数以上が、矢傷を受けています。
今も次々と矢が射かけられています。
王都警備隊には悪いですが、私たちの盾になってくれました。
私たちが王都警備隊を見送る形だったのが幸いしました。
急いで屋敷の中に逃げ込みましたが、体制を立て直す時間はありませんでした。

敵が馬上突撃してきたのです。
全員が馬に乗っていたわけではありません。
馬を失った者もいるのでしょう。
人数も百を切っているように思えます。
王都警備隊を襲撃した時に、味方はもちろん馬も失っているのでしょう。
騎士隊長ならば百十騎の騎士従士を指揮統率しているはずです。

そう判断できる私は、意外と冷静なのかもしれません。
それとも、死ぬ前に時間がゆっくり流れるという現象でしょうか。
眼の前に大きな馬が迫ってきます。
思わず抱いて逃げていたネイがいなければ、魔法書や魔法巻物が使えたのに。
そう思っても全てが後の祭りです。

「ウリャァァァァァア!」

ダニエラが気合一閃、私に迫っていた馬の首を、両手で振り下ろしたハルバートで斬り落としてくれました。
次々と迫る騎馬を、ハルバートを使って斃していきます。
ヴァレリアが大盾を駆使して、私に迫る騎馬の進路をそらしてくれます。
ソフィアが煙幕や目潰し騎馬に投げつけ、私が狙い撃ちされないようにしてくれています。
カルラが私が預けたままになっていた、初級下の魔法書を使い、軍馬を的確に狙い撃ち、騎士を落馬させて重傷を負わしています。

彼女たちが稼いでくれた宝石のように貴重な時間を使って、私はネイを地上におろして中級上の魔法書を取り出しました。
今は出し惜しみしている場合ではないと判断したのです。
最大の破壊力と弾数を放てる魔矢の魔法所を使い、敵の騎士を一気に斃しました。
百人程度いた敵の騎馬隊が、今では十数騎に減っているように思えます。
もっといるのかもしれませんが、煙幕のお陰で視界が悪く分かりません。

「今のうちに屋敷に引きましょう」

「撤退します」

私の提案を受けて、カルラが他の三人に指示を出します。
屋敷の玄関までの短い距離に、リーアス王都警備隊騎士隊長が倒れています。
生きているのか死んでいるのか分かりません。
乱戦でいつ敵の攻撃を受けたのかもわかりません。

一瞬助けようか迷いましたが、これからの戦いがどうなるか分からなので、魔力を温存すべきと判断して、見捨てる事にしました。
薄情だとは分かっていますが、私にはネイを護る責任があるのです。
ダニエラたちを支援する義務があるのです。
心の中で詫びて、私はネイの手を引いて屋敷の中に逃げ込みました。



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