「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第70話

「ようやく新薬が完成しましたね」

「はい、お嬢様」

オウエンが満面の笑みで答えてくれます。
常に私の側にいて、護ってくれる代え難い存在です。
そのお陰で、安心して毎日を送ることができます。
闇社会に強い影響力を持つ、アーレンという存在が心に刺さったままですが、オウエンのお陰で悩まされることなく暮らす事ができています。

アーレンと表向き和解してから一年、今の所は危険を感じたことはありません。
アーレンに懐柔されていると思われる家臣の目星もつきました。
何時でも始末することができますが、今は殺さずに泳がせています。
裏切っているのが、その者達だけとは限りませんから。

そんな事よりも大きな問題は、新薬の完成です。
製薬の手順を一つ増やす事で、今までの最高級薬よりも、五割増しの薬効を得ることができました。
この手順は、私とオウエンだけが知っている事です。
今までの製薬は、オリビア一族に任せることにしました。

子供も無事に生むことができました。
貴族らしい血も涙もない考えかもしれませんが、ノドン子爵家とミルド子爵家を継げない子供は、養子に行くか分家するしかありません。
分家には士爵か騎士の地位を与え、ノドン子爵家かミルド子爵家で陪臣士族の格で召し抱えることになります。

ノドン子爵家を守っていくには、新しく発見した製薬方法を伝える相手は、当主と後継者に限らないといけません。
アーレンの時のように、他の者に知られるわけにはいかないのです。
まあ、跡継ぎでなく、武芸の才能もない子供達には、オリビア一族に教えたのと同じ製薬方法を教えてあげれば、それなりの収入は確保できるでしょう。

そう思っていたのですが、更に陞爵されることになりました。
私が当主を務めるノドン子爵家は、未開発の広大な荒地を開発したことで、ノドン辺境伯家となりました。

オウエンが当主を務めるミルド子爵家は、ノドンダンジョンから王家に献上された神具の数々が評価され、隣国と開発競争が激しい未開地の開発権を与えられ、ミルド辺境伯家となりました。

どちらも兄レイズ卿の後押しがあっての事ですが、私達が手に入れた莫大な財産を消費させようという意図もあるのでしょう。
同時に、兄の子孫が堕落した時には、ノドン辺境伯家とミルド辺境伯家にハワード王家を支えさせようという意味もあるのでしょう。

四大公爵家時代や二大公爵家時代に、グラント公爵家・シャノン公爵家・ボイル公爵家が担っていた役割を、私達にやらせようという事です。
兄らしい分かり難い忠誠心ですが、それが兄レイズ卿です。
私ならとっくに殺しているイーサン元王太子を生かしているのも、兄の忠誠心と孝行心からでしょう。

まあ、その気持ちが分かるだけ私も古いのかもしれません。
代が変わって一族が争う事がないように、子供達にはよく言い聞かせなければいけませんね。
兄の子供達と私の子供達が交流する機会を増やしましょう。



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