「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第40話

「いや、はや。
レイズ卿にはかないませんね。
閣下に接触したかと思えば、電光石火の早さで事を運ばれる。
これでは私が介入する間も手もありません。
完敗ですよ」

アーレンが空々しい事を口にします。
全部計算通りでしょうに。
兄上もアーレンも、最初から落としどころを考えていたはずです。
私の悩みや決断も計算した上で、この結果になる事を予測していたはず。
まあ、誤差も計算していたでしょうが。

でもそれもこれも、兄上とアーレンが、不断の努力を重ねているからです。
兄上が、私を含めたこの国の貴族全てに眼を光らせていたからこそ、アーレンの陰謀を事前に察知し、こう言う手段をとる事ができたのです。
そうでなければ、あの荒地はアーレンの好き勝手にされていたでしょう。

一方のアーレンも、この国のあらゆる所に眼を光らせていたからこそ、荒地に地下鉱物があることを調べられたのですし、兄上を敵に回す事もなかったのです。
もしアーレンが下調べを疎かにして、兄上の実力を正確に見抜いていなかったら、欲をかいて兄上に討伐されていたかもしれません。

兄上は、利用するところもない簡単に潰せる敵と判断されたら、情け容赦せずに徹底的に潰されます。
復讐などできないように、禍根を断つために、皆殺しにされます。
それをアーレンも理解していたのでしょう。
兄上を怒らせない程度の利を確保した上で、役に立つ所まで見せています。
まあ、私にも十分な利をあたえてくれましたが。

「どこか傷むのですか、閣下?
さすってさしあげましょうか?」

そんな気はなかったのですが、大きくなったお腹に自然と手がいったようです。

「痛くはないのよ。
ただお腹が大きくて大変なだけ。
でもオウエンがお腹をさすってくれたら、その大変さも飛んで行ってくれるわ」

私はついオウエンに甘えてしまいました。
オリビアが保証してくれているとはいえ、どこか不安があるのです。
初めてのお産というのは、こんなにも不安になるモノなのですね。
妊娠して初めて知りました。

つわりは軽くすんだのですが、時々不安を感じてしまうのです。
アーレンのせいで色々ありましたから、別の意味で不安や恐怖を感じていましたが、アーレンの件が片付いたら、純粋に妊娠出産に不安を感じてしまいます。
オリビアの手前不安を面に表す事はできませんが、不安なモノは不安なのです。

でも、オウエンの力強い手でさすってもらうと、その不安が軽くなります。
厚く安心できる胸に抱かれると、よく眠ることができます。
オウエンのような強い子が、五体満足で生まれてくれると、信じる事ができます。


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