「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第31話

「オウエン、オリビア母さん、ミリアム。
これをどうすればいいと思いますか」

眼の前に大量の薬草が積み上げられています。
いえ、薬草だけではありません。
薬の調合に必要な全ての素材がそろっているのです。
でもそれだけなら、ここまで困りません。
問題は、全て完璧に下ごしらえされているという事です。

私達の創る薬が、通常の五倍の効果があるのは、この完璧な下準備、下ごしらえがなされているからこそなのです。
確かにその後の調合方法の方がはるかに難しく、繊細で複雑な作業が必要ですが、それも完璧な下準備下ごしらえがあっての事です。
その下準備、下ごしらえの方法をアーレンに盗まれてしまいました。

「断ればいいのです。
アーレンは、この素材を渡して調合料金を支払うから、薬を作って欲しいとってきているのでしょ。
ですがその調合料金は低すぎます。
そのような安い価格で引き受けなければいけない義理はありません」

確かにオウエンの言う通りです。
建前的にはその通りなのですが……

「それはその通りですが、断れば襲撃してくるかもしれません。
調合方法を知っている、私達四人を誘拐しようとするかもしれません。
裏世界に力を持つアーレンから、逃げきれるでしょうか?」

オリビア母さんの心配は、私の心配でもあります。
屋敷に籠っている限り、私達四人は安全でしょうが、永遠に屋敷に籠っているわけにはいきませんし、家族が狙われる可能性も高いのです。
もう私が家族といえるのは、オウエンとオリビア母さんだけです。
乳姉ミリアムも大切ですが、絶対に見捨てないかといわれたら、返事に困ります。

オウエンなら、私以外の全てを切り捨てるでしょう。
オリビア母さんだって平気で切り捨てる事でしょう。
ですが、オリビア母さんに家族を切り捨てろというのは、酷です。
夫やミリアム以外の子供が誘拐されて脅迫されたら、オリビア母さんは私への愛情と忠誠心を、家族愛と比べるという、究極の選択を迫られることになります。
そんな事はさせられません。

「調合料金を交渉しましょう。
あるいは素材を全部買い取る価格交渉をしましょう。
不本意ではありますが、仕方ありません。
今の我が家には、アーレンと正面から戦う力はありません。
力のない貴族が、力のある貴族に従わされるのはよくある事です。
私はもう公爵令嬢ではありません。
男爵家の女当主です。
家を守るためなら、力ある平民に屈し頭を下げる覚悟も必要です」

「承りました。
閣下の面目を護りつつ、家臣の命も護る交渉をいたします」

オウエンが決意に満ちた目をしています。
交渉現場でアーレンを殺さなければいいのですが。

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