「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第19話ゴードン公爵家王都屋敷の出来事1

「公爵閣下。
ノヴァお嬢様から使者が参りました。
ご相談したいことがあるので、お時間を作って欲しいそうでございます」

ゴードン公爵は覚悟を決めた。
いずれ使者が来るだろうとは思っていたが、予測が外れる事を願っていた。
家のためとはいえ、あれほどの負担を与えたのだ。
自分が娘から憎まれる事も、見捨てられる事も予測できていた。
そもそも最初に見捨てたのは公爵自身だったから。
だから直ぐに近習頭に返事ができた。

「分かった。
ノヴァの都合がつくのなら、今夜の晩餐で話をしよう。
そのように伝えてくれ」

近習頭は急いでノヴァ嬢に返事をしようとした。
だが父親の近習であろうと、男が無暗に貴族令嬢に近づく事はできない。
それでなくてもゴードン公爵自身が、ボイル公爵兄妹の近親相姦と、王太子と不義の子の姦通を断罪したばかりだ。
多くの貴族がゴードン公爵を恐れ、落ち度を探そうとしている状態なのだ。

近習頭はノヴァ嬢に仕える侍女に返事を伝えた。
だがその侍女も、ノヴァ嬢の近くによる事は許されていない。
ノヴァ嬢と同室するどころか、決められた部屋以外は入る事すら許されていない。
ノヴァ嬢が内奥と定めた部屋に入れるのは、乳母オリビアと守護騎士に復帰したオウエンだけだった。

そこで侍女は、ノヴァ嬢に話があるときだけ入れる取次の間に入り、魔道具を使ってオリビアに近習頭からの伝言を伝えた。
それくらいノヴァ嬢は警戒していた。
実家であるゴードン公爵家を、明確に敵地だ宣言していた。
だがそれも仕方がないと、侍女はもちろん家臣の全てが思っていた。
ゴードン公爵自身と、今は亡き処断されたゴードン公爵夫人ギネアのやったことを考えれば、しかたがない事だった。

そしていよいよ、ゴードン公爵とノヴァ嬢が直接戦う時がやってきた。
論戦ではあるが、互いの名誉と将来を賭けた戦いだった。
その場には次期当主でノヴァ嬢の兄であるレイズも同席していた。
守護騎士オウエンが、ノヴァ嬢の後ろに控えて護っていた。
乳母オリビアが、毒などが盛られていないか厳しく目を光らせていた。
ゴードン公爵とレイズを敵視している事を露骨に表していた。

「ゴードン公爵。
お願いがあるのですが、よろしいですか?」

「それは、娘として父に対するお願いか?
それとも、イーサン王太子殿下の婚約者としての望みか?」

「あら?
わたくしに記憶違いでしたでしょうか?
わたくしは王太子殿下との婚約を破棄され、ゴードン公爵家からも追放されたはずですが、いつ追放が許され、婚約者にもどされたのでしょうか?
まだ国王陛下は何も決めておられないはずですわよね?
グラント公爵令嬢アメリアとの婚約も解消されておりませんわよね?
わたくしはゴードン公爵家に客として招かれ、客間を使わせてもらっている身ですわ、当然客人としての願いですわ」

ノヴァ嬢は一気に勝負を挑んだ。

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