「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第3話

「別の冒険者村ですか?」

「はい、また新たな名前で資格を申請したします。
髪の毛も別の色に染めていただきます。
それで逃げきれると思うのですが?」

アーレンはまた多額の費用を負担してくれる心算のようです。
ですがもうこれ以上負担してもらうわけにはいきません。
それでは甘え過ぎです。
それに、これ以上は危険すぎます。
王太子の身勝手さはとても危険なのです。

いえ、王太子に限りませんね。
王侯貴族士族は、平民の命など踏みつぶしても構わないと思っています。
私にも平民を下に見るところがあります。
それを当然と思っている面があります。

命を大切に思い、救おうとしている心に嘘偽りはありません。
ですが礼を尽くされるのが当然だと考えているのも確かです。
自然と命令口調になっている時もあります。
命令するのが当然だと思っている時もあるのです。

実家を追放され、冒険者を相手に薬を商い、冒険者の態度と言葉遣いに、思わず怒りを感じた事も一度や二度ではありません。
自分がどれほど平民を下に見ていたのか思い知りました。
いまだにその点は完全に解消されていません。
恐らく死ぬまで完全に解消されることはないでしょう。

「それは危険な考えです。
王太子は平民の事など虫けら同然に考えています。
これ以上私達に手を貸したら、商店を潰されるだけではすみません。
家族ともども殺されることになります。
ここですっぱりと関係を断った方がいいでしょう」

「……ありがとうございます、ノヴァ様。
そこまで私達の事を考えてくださるのですね。
なればこそ、何かお手伝いさせてください!」

「ノヴァ。
ここはアーレン殿の力を借りましょう」

オリビアがとんでもない事を口にします。
偽装もかねて、オリビアとは母娘を演じています。
だからオリビアには呼び捨てにしてもらっています。
元々実家の母よりも、乳母オリビアの方が私には身近でした。
今ではオリビアを本当に母親だと思っています。
領地に残っているオリビアの実の娘には心から悪いと思っています……

「お母さん、それはアーレン殿に甘え過ぎです」

「それは分かっています。
ですから手伝ってもらう事に気をつけるのです。
この国の事は一切頼まないようにするのです。
アーレン殿。
他国に縁はありませんか?
他国なら色情狂も力の振るいようがありません。
それでもアーレン殿の協力は表にださない方がいいでしょう。
他国ならば、名前も髪の色も、今のまま使えるのではありませんか?」

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