「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第33話

「女王陛下。
皇国を名乗り、女皇帝を名乗られてはどうかと愚考したします」

私が廷臣の居並ぶ前で、五人の頬を張って以来、全貴族士族の私を見る眼と態度が露骨に変わりました。
それまでは傀儡の女王と思っていたのでしょうが、今では望みとはかけ離れた絶対君主となっています。
退位するために頬を張ったのに、不本意極まりないです。

ですが、仕方がないのです。
私が女王でなければ、五人の争いになりこの世の地獄が出現すると言われたから。
五人の存命中は何とか話し合いですんでも、代が変わったら内乱が起こり、多くの民が死ぬ事になると言われたら、退位するとは言えなくなりました。

まあ、多分に言い訳や嘘が含まれているのは分かっています。
ですが、まあ、完全な言い訳でも嘘でもありません。
頓珍漢な的外れの思いでも、私への思いやりなのは確かです。
それに、女王だからこそ出来ることもあります。
孤児院を各所に作り、孤児が死んだり悪事に走ったりする事を防げます。
老人院を作り、捨てられたり野たれ死にしたりする老人をなくすことができます。

「ひとつ尋ねます。
私にその資格はありますか?
力で人を従え、領地を切り取れば王になれるでしょう。
ですが皇帝は違うのではありませんか?
どれほど多くの人を従えようと、数カ国分の広大な領地を切り取ろうと、覇王が皇帝を名乗るのは間違いではありませんか?」

「女王陛下は高く深い御心で、孤児や老人をはじめ、多くの民を救われました。
女王陛下以外の誰が皇帝に相応しいと言えましょう。
今この大陸には二カ国の皇国があり、二人の皇帝がおられます。
ですが、その二人よりも、女王陛下こそ皇帝を名乗るに相応しいのです」

ルーカスはそういいますし、他の四人も廷臣達もうなずいていますが、私にはまだ納得ができません。
この程度の事で、皇帝を名乗る訳にはいきません。
下手に名乗って、二つの皇国と争いになるのも嫌です。
ルーカス達がいるので全く負ける気はしませんが、これ以上国民の生活と命という重たい責任は背負いたくないです。

「いいえ、私はこの程度では満足できません。
単に孤児や老人の命を救うだけでなく、手に職をつけてあげて、誇りと生き甲斐を持てるようにしなさい。
障碍者と病人もです。
単に支援するだけでは愛玩動物と同じです。
人に頼り助けてもらうのではなく、誇り高く生きられる仕組みを作りなさい」

「はい。
では、そのような仕組みを作れば、皇帝を名乗って頂けますか」

「もう一つ、私がロディーを皇帝に相応しい人間に育てられたらです。
後継者を育てられないモノに、皇帝を名乗る資格などありません。
では、後は任せました」

「はい、ですが、どこに行かれるかお教えください」

「ロディーの教育です。
これに勝る重大な仕事はありません!」


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