「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第25話

「どうするべきかねぇ?」

神官戦士のデービッドが、その場にいる仲間達に目をやりながらたずねます。
特に困った様子もなく、いたってのんびりしたモノです。
デービッドにとって、邪竜は恐れるモノではないのですね。
ですがこのままでは、王都だけでなく国中の人が食べられてしまいます。

「どうするって、それはどの国の誘いを受けるかってことかい?」

ウィリアムの言う通り、この屋敷には毎日各国の使者がやってきます。
二匹目の邪竜が現れたことと、ルテルナル王国が邪竜退治に失敗した事は、近隣諸国を恐怖させたようです。
まして前回の邪竜退治で表に出ていたエイデンが、食べられてしまったのです。
邪竜が自国に来る前に退治したいと思うのは、国の指導者として当然の事です。

まあ、彼らの思惑はそれだけではありません。
ルーカス様たちを取り込み、邪竜退治に成功すれば、王家が滅んだルテルナル王国を正当に併合できるとも思っているのでしょう。
なんとも厭らしいやり口ですが、これも国の指導者なら当然の事です。
誰一人この国の民の事など考えていませんが、それも当然の事です。
どこ国の指導者も、まずは自国の民の事を考える責任があります。
ルテルナル王国の指導者は、自国の民の事も考えていませんでしたが……

「俺個人の意見は、ルーカスに侯爵位、俺たちに伯爵位を約束している国に所属する事だが、ルーカスは反対なのだろ?」

ウィリアムがルーカス様に問いかけます。
ルーカス様は元々この国の徒士家出身ですから、他国に仕えるのは抵抗があるのかもしれませんね。

「そうだね。
彼らは爵位で俺たちを釣って、この国を手に入れようとしている。
それはちょっと腹立たしい。
俺たちを軽く見るにもほどがある。
この国の爵位を受けたのは、ここが俺たちの生まれ育った国だからだ」

「まあ、ルーカスの気持ちも分かるが、後ろ盾なしに邪竜を退治したら、その後でこの国は各国の草刈り場になるぞ。
それじゃあ、結局多くの民が死んじまうぞ」

ルーカス様の考えに、戦闘斥候役のジョーンが意見します。
ジョーンは心優しい男ですからね。
民が一番死なずにすむ方法を選びたいのでしょうね。
ですがそれはルーカス様も同じはずです。
いえ、ここのおられる英雄たち全員が同じ考えのはずです。
被害想定の見積もり方と範囲に差があるのでしょう。

「非道なやり方ではあるが、邪竜を殺さず幾つかの国に追い出す。
民の被害は最小限に抑えるが、国境の軍城はいくつか破壊する。
そうすれば不可侵条約締結を受けるはずだ。
それに、俺たちが竜を他国の追い込めると知れば、誰も逆らうまい」

「それはいいがよぁ。
誰が不可侵条約に署名するんだ?
もうこの国には王様も王子様もいないぞ?」

そうです。
デービッドの言う通りです。
外交の正式文書には国王の署名と国印が必要です。
あれ、全員がルーカスの顔を見ています。
ルーカスに王なれと言っているのですね!

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