「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第12話

「キャァァァァァア!」

最初は、手伝いに雇っている女性の悲鳴から始まりました。
彼女は偶然見てしまったのです。
門番に立っている元冒険者が刺客に殺されるところを。
元冒険者が全盛期の実力ならば、刺客に殺されなかったかもしれません。
しかし彼は、狩りの時の負傷で片足を失っていたのです。
今の彼には刺客を防ぐ力などなかったのです。

一方刺客も不本意だったと思います。
本当は出入り口から入りたくなどなかったでしょう。
塀を飛び越えて密かに入り込みたかったはずです。
ですがそんな事は不可能でした。
ルーカス様とデービッドが張り巡らせてくれた防御結界のお陰で、正規の出入り口以外からは、この屋敷に入るくことも出ることもできません。

「みな小屋に入りなさい!
なにがあっても出てきてはいけません!
責任者は子供たちを小屋に入れるのです!
急いで!」

私は以前からルーカス様たちと話し合っていた通りにしました。
ルーカス様たちは想像されていたのです。
私の発言で恥をかかされた貴族たちが報復することを。
一か所に留まれば必ず刺客を送り込んでくることを。

刺客を想定して、魔法による防御結界を張り巡らせてあります。
特に私とロディーの住む小屋には、幾重にも結界が施されています。
あそこにいるロディーとハーパーにはなんの心配もありません。
問題は私自身です。
料理を作るために食堂の調理室にいるのです。
普段私がいる場所なので、比較的厚めの結界は張られていますが、私の小屋ほどではないのです。

まあ、でも、だいじょうぶでしょう。
塀に沿って敷地全体に張り巡らせた結界を破れない刺客です。
食堂の結界を破れるとは思えません。
ルーカス様たちが戻られるまで、ここにこもっていれば大丈夫です。

「ママ、ママ、ママ!」
「ママ怖いよぉ!」
「キャァァァァァ!」

「出てこい、カチュア。
出てこなければこの子供たちを殺すぞ」

エマとミアです。
小屋に逃げるのが間に合わなかったのでしょう。
もしかしたら、小屋ではなく私のいるところに来ようとしたのかもしれません。
見捨ててしまえという考えが、全く浮かばかかったわけではありません。
私が死んでしまうことになったら、ロディーが一人残されてしまいます。

いえ、ハーパーは死ぬまで親代わりをしてくれるでしょう。
ルーカス様たちも親身になってくれるはずです。
でも、実の親の愛情を知らずに育つことになります。
なによりも、私が死にたくないのです。
ロディーを残して死ねません!
ですが、エマとミアをに見殺しにするような人間にはなりたくはありません。
そんな人間だとロディーに思われたくないのです。
神様!
私に勇気と力をお貸しください!

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